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カメラを止めるな!の豚のレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
4.5
ワンカットのみで構成された「ONE CUT OF THE DEAD」という、劇中映画を中心に、多彩な人間ドラマが繰り広げられるゾンビコメディ。

小説や書籍、イラストなど、創作物を作る過程でさまざまな要因・運によって、思いもよらないものが出来上がるということは往々にして存在する。
長回し、一発撮りというまさに"何が起きるか分からない"状況下で撮られたこの「ONE CUT OF THE DEAD」は、一見しただけでは決して分からない無数の仕掛けが散りばめられており、この作品の色が180度ガラリと変わる後半はまさに圧巻の一言。
物語の意味と価値が逆転するこのカタルシスは、久しく味わっていなかったように感じる。

「バードマン」でエマニュエルルベツキが見せた、119分における長回しがいわば"究極の技術の結晶"であることに対し、「カメラを止めるな!」における長回しはそれとまた別ベクトルで描かれた"執念と信念の詰め合わせ"ともいえる37分間の奇跡。
一部の隙もない完成度を見せた「バードマン」に比べ、この作品におけるカメラは明らかに人の存在を意識させる。
よくいえば臨場感溢れる、悪くいえば素人臭い撮り方なのだけれど、物語の展開も相まってまるで自身が出演者のひとりであるように錯覚し、やがてこの導線が作用しだす後半の爆発力を生んでいるように思えた。
こうした意図的な混在を狙った演出と綿密に練られた脚本力によって、少しずつ製作者と観客の視線が重なり合い、そして合致して突き進んでいく展開はまさに怒涛の勢い。

こういう展開になるであろうと勘の良い人であればすぐ気付くと思いますが、それでもまったく問題ないほど優れた脚本です。
映画館でこれほど笑ったのは久しぶりでしたし、館内がこれだけ爆笑の渦に包まれたのも凄く久々に見ました。
あまりに人気が出すぎて劇場で良い席が取りづらいのが難点ですが、この作品に関しては"大勢でひとつの映画を共有する"というファクターが非常に重要な要素でもあると感じるので、ぜひ映画館で観てほしいなと感じます。
国内のクリエイターたちがこの作品の大ヒットを見て、評価や予算にとらわれない新しい一歩を踏み出してくれたとしたら、受け手としてこれほど嬉しく楽しみなことはないなと思いました。

映画だけじゃなく創作物すべてへの真摯な愛に溢れた、素晴らしい作品でした。
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