湯呑

カメラを止めるな!の湯呑のレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
4.6
まず、冒頭の30分ワンカットのゾンビ映画が上手くできている。近年は、CG技術の発達により擬似的なワンカット撮影が多用される様になったが、このワンカット撮影にはメリットとデメリットがある。
①観客の体感する時間と劇中に流れる時間を一致させる事により緊張感を生み出せる事。②視点が限定されている為に、作り手が見せたくないものを隠しておける事。こうしたメリットゆえに、ワンカット撮影はホラーやサスペンスといったジャンル映画で重宝される。具体作を示すなら①の利点を駆使したのが『ゼロ・グラビティ』で、②の特性を騙しのテクニックに利用したのが『ヴィジット』である。
しかし、このワンカットという撮影方法は観客にカメラの存在を強く意識させるが故に、映画の虚構性をいっそう強める作用がある。従って、観客がその技法に不自然さを感じてしまった瞬間、①の緊張感は失われ、②のご都合主義的なカメラワークが透けて見えてくる。あっという間に作品が作り物めいてしまうのだ。本作のゾンビパートにおいても、登場人物の台詞のやり取りがやけにぎこちなかったり、ゾンビに襲われてからの行動に一貫性がなかったり、不自然極まりないのだが、それがいかにもインディーズのホラー映画らしいというか、要するに単に下手なだけなのか、と思わせる事に成功している。まさに、本作のみで成立する一世一代の荒技と言えるだろう。
しかし、それだけなら本作は単なる一発ネタの低予算映画でしかない。秀逸なのは映画がどの様にして作られるかを自己解体的に絵解きしながら、そこから観客が思いもよらなかった物語を立ち上げるその手腕である。本作が多くの人々に受け入れられているのも、作り手の映画に対する真摯な態度が積み重なってラストに大きな感動を呼ぶからだろう。久しぶりに、映画らしい映画を観た。
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