2人の仕草、2人の間合い、2人の会話、2人の視線、2人の空気感。
まるで読書しているかのような感覚だった。
よく出来た作品だなと唸りながらも最早、2人にしか通じえぬ禁断の領域に走る境界線へ踏み込んだかのような緊張感とヒリヒリ感が堪らない強烈な作品だった。
クラシックな雰囲気で終始スローテンポに描きこみながらクライマックスからサスペンス調に一気に落とし込む絶妙な匙加減は名人芸の域。
矢張りポールトーマスアンダーソンは只者じゃないな、うむうむ。
もう、先ずウッドコックのカラダに脈打つかのような偏愛的なまで統制された美になぞらえたかのような画面の構成、撮り方は完膚なきまで圧巻である。
それはまさにワンカットワンカットが絵画のよう。
そして2人にとってのイニシアチブとでも言おうか、緊張感漂う微妙な距離感の描き方が秀逸。
俳優陣の些細な表情や表現を意図して掬い上げる繊細な業は勿論のこと、彼らの存在の有無を定義しつつ、そこに描いてる空間とを一緒に捉えている。
そこに張り詰めた空気までもを掌握したかのようにカメラに収めている。
そんな演出が出来る凄い監督なんだなと改めて感服。
ストーリーは50年代のロンドンを舞台にオートクチュールの仕立て屋さんが別荘地近くのカフェ
を訪ねた際にウェイトレスのアルマと出会ったところから話が動きだす。
それはまさに踏み込んではいけない場所だったのか、はたまた運命というものなのか、必然的な心身の欲求なのか。
繋がった2人はまるで欠けていたパーツの様に呼応していくが次第にアルマがウッドコックの境界線に踏み込んでいく…。
まるでヒッチコックのようなスリリングな薫りを纏っている感じがしたが矢張り監督自身も「レベッカ」をヒントにしていると公言していることからこの作品の魅力がそういったクラシカルなところに根付いてるのだなと感じつつ、独特の刺々しさは昔から変わってない笑
ブギーナイツのあの"イチモツ"のおかげでブッとんだ爽快な感じからマグノリアのカエル、ゼアウィルビーブラッドの"石油"の様な欲望と奇天烈牧師に至るまで何かスイッチ的な要素が必ず張り巡らされているのが気持ち悪くありながらも楽しい。
彼の作品の好き嫌いは相変わらずだろうが、この作品の芳醇な味わいはきっと受け易いのでは?(少なくとも)
ダニエル・デイ=ルイスの演技の幅、その機微には相変わらず痺れたが本作の狂気は矢張りアルマ演じるヴィッキー・クリープスではないか。
彼女の毒が彼どころかまさかアトリエまで毒してしまうとは。
その恐ろしさと愛の形の様々には笑ってしまった。
華々しい衣装がクローズアップされアカデミー賞でも衣装デザイン賞取れたけど、この作品のファッションについては哀しいかな、主役はトムクルーズなのに助演の俳優がアカデミー賞にノミネートされてしまった時のトム・クルーズみたいに惜しい笑