改めて鑑賞。
傑作。
素晴らしかった。世界観、衣装、セット、映像、物語、全てが美しい。
食と服が生きている話なんて好きに決まってる。
2019/03/20 03:01
ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.5
筆をとるも何から書けばいいのだろうかという書き出しになってしまうほど理解が追い付かなかったラスト5分。
最後はもう笑いがでていたんだけど、どういった脳内の処理を経てでてきた笑いなのかは謎。
結果だけいうなら面白かったし要素を拾っていっても感動に値するものが多かった。
結論から言うと、(異常な)二人の運命的な出会いからハッピーエンドまでのラブストーリー。
その異常性や根底に流れる狂気を引き立てる美術、音楽、衣装などから作られたいびつな空気が美しく、それがなかったらこの映画は成立しなかった。
BGMの使い方もすごく印象的ですばらしかった。
そのバランスが映画を高い位置に押し上げているのだと思う。
まずはレイノルズというキャラクターが最高だった。この変態じみた狂気じみた天才の仮想のドキュメンタリーで仕事ぶりを延々みたい、もうそれでいい!と思えるくらい魅力的。
生地について語るシーン「顧客が好むからではない、正しいから正しいのだ、美しいからだ」の件もしびれます。
服、異常なまでのこだわりの数々。そしてなによりダニエルデイルイスがひたすらかっこいい。
理想的な男性。このキャラクターがいるだけでこの映画は傑作。
(だからこそアスパラガス以降アルマのような凡人に天才の仕事が阻害されるのが観ていられなかった)
天才的な職人、芸術家とその仕事への信奉者という関係性は心地よかったので、レイノルズとアルマでドレスを奪い返すシーンは本当に痛快で唯一涙がこぼれたシーン。
「怒ってるの…ドレスがかわいそう」いいセリフ。
このまま仕事を軸に話が進めばよかったけどキノコですね。
思い返せばこの映画は服がメインとみせかけて食事のシーンがやたら多くどれも印象的だった。
オープニングの朝食、アルマと出会う朝食、アスパラガス、上げればきりがないほど食事のシーンが多くなおかつ印象的。
食は好きな要素のひとつなので結構記憶に残っている。
ただこれも改めて観るとだけど、決して映える、おいしそうな撮り方をされていることはほとんどないんだよね。瑞々しさよりもコントラストが強くそれこそ毒々しさを感じさせるようなライティングと色彩で撮られたものばかりだった。
また香りに関しても同じでシリルの嗅覚はラストにつながってますね。自分が以前食べたもの(吐いたものも含めて)香りの記憶として残っているからこそのあのラストシーン。
五感の鋭敏さとかこういうキャラクターづくりもとてもいい。
さっき書いたように中盤はアルマの安っぽい嫉妬の話で終わるのかと思って正直途中で観るのをやめようかと思ったんだけど(レイノルズがかっこいいから観続けられた)、
最終的には2人のパーツがはまる……というよりも縫製されて一つになるように補完し合う関係になっていたことがエンディングをドラマティックにしていた。
これが互いの「依存」ではなく案外前向きで純粋に求め合っている愛情の形になっているところが面白い。ただ互いの表現がゆがんでいるだけでほんとうに愛し合って支え合っているんだなと。
なんども書いているけどアルマが本当に気持ち悪いんだけど、ややディフォルメされているだけで、アルマに共感できる人って結構いるのかなと思う。
一見ミザリーのようにも見えるけどそれよりも複雑で人間の心と心の絡み合いが強い映画だった。
アルマは容姿も褒められているシーンはあるけど正直美女というタイプではないよね(レイノルズは母を観ていたということだけど)
ただものすごく印象的で何とも言えない、ライティングで表情を変える能面のようなミステリアスな空気を帯びている。
当然ながら衣装は本当にすばらしい。
Twitterに画像つきでまとめたけどレイノルズの着こなしはメンズクラシックという時代と恒常性を兼ね備えたジャンルだからこそ美しい。
また一方で細部は現代的で単に当時の服飾を再現しているわけではないのがわかる。