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ある少年の告白のるんPANのレビュー・感想・評価

ある少年の告白(2018年製作の映画)
3.5
(一応)記念すべき400作目。少しでも多くの人に知って欲しい作品。

転向療法、所謂”同性愛矯正施設”に送り込まれた少年の回顧録を映画化。

これは数十年以上前の話ではなく、2000年代の話ってことが重要。映画完成時でも未だに36州で未成年者への転向療法が法的に許可され、今までに少なくとも70万人以上のLGBTQが影響を受けたとのこと。

筆者の体験自体も非人道的で酷いけど、受けた内容や母親の存在、その後の展開を考えるとこれはまだ良い方(良いも悪いもなく全て酷いことなんだけども)。これよりももっと酷いことも実際にごまんとあって、これと同程度か軽いものは市民生活レベルで根付いてるのもあるし、こうやって当事者の生の声(を基にした作品)を見聞きするのはとても重要なことだと思う。

以前、転向療法を受けさせられた元少年のドキュメンタリーを観たけど、あまりにも酷くて言葉も出なかった。時代背景も環境も違うから一概には言えないけど、この映画で描かれたものよりももっと激しい肉体的暴力や言葉の暴力を振るわれ、未だにトラウマを抱えているのを涙ながらに語っていた様はすごく胸が張り裂けそうだった。2015年には(英語版Wikipediaに実名が載っている人だけで)10人以上ものLGBTのティーンエイジャーが自殺し、いくつかはメディアにも大きく取り上げられ、時のオバマ大統領が転向療法を非難し終わらせるよう声明を発表したけど、結果論として結局何の意味も持たないまま終わってしまった。自分が高校生の頃は友達とわちゃわちゃしたり恋人と楽しんでたのに、海を超えれば同い年の子が転向療法を受けさせられて自殺していたって思うと本当に胸が痛い。

WHOの精神疾患から同性愛が除外されたのが1990年(トランスジェンダーに関しては来年2022年に除外予定)と、同性愛は”病気”や”治療対象”とされてきたものから徐々に変わっていってるとはいえ、世界的に見れば偏見もそうだけど宗教的な事情等から同性愛を異常・治るものと考えている人が未だに一定数いるのも事実。

例えば、この映画が公開された数ヶ月後に発売されたインタビュー本でローマ教皇は同性愛を「非常に深刻な問題」とし、「同性愛が最新の流行であるかのようにみえる」と懸念を示してるし、2016年には同性愛者の聖職禁止に加えて、同性愛を支持する人も禁止するなどカトリックの反同性愛は時代に逆境してますます強くなっている。何が神だ、何が宗教だと思わずにはいられないけど信者達は違うんだろうね...

先週のニュースでアメリカの若者の6人に1人がLGBTを自認しているとの世論調査が発表されたことや、アメリカ国内で無宗教の割合が若年層で4割(2014年時点)と年々増えていることも考えると、カトリックが同性愛を認めるのも遅かれ早かれ時間の問題ではないかと思うけど、一刻も早く普通のことが普通に認められるようになってほしい、なるべきだと強く強く思う。日本は宗教的な側面ではなくシンプルに保守的な国だからまだまだ風当たりは強いけどね。

個人的に強く思うのは、邦題の失敗さ。確かに日本人向けで当たり障りなく分かりやすい邦題かもしれないけど、原作の「Boy Erased」こそが筆者が最も言いたいことを表してると思うから、そこが非常に残念。

ちなみに、大好きなトロイ・シヴァンが役者として出演し主題歌も担当してるのは胸熱。最後にトロイのインタビューの言葉を。


「この映画で誰かの命が救われると確信した。受け入れられることがどれほど素晴らしいことかを自分は知っている。子供を受け入れられる家族が増えることを願っている」


P.S.同性愛矯正施設や転向療法については英語や日本語で検索してもっと実情を知ってほしいと切に願う
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