YUKi

暁に祈れのYUKiのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
4.4
タイ在住のイギリス人ボクサーが
薬物で身を落とし、送り込まれた刑務所で
ムエタイを習得して‥という、
実話小説の映画化。

序盤からあっという間に
タイの刑務所に服役するものの、
更にその地獄の3丁目くらいから
7丁目くらいまで堕ちてしまうので
この状況を打破するなんてあり得ない
と観客もどん底に突き落とされます。

で、この刑務所の環境、何十人もの
極刑待ちレベルの凶悪犯罪者と
同室に押し込まれ、目を背けたくなる
痛々しいシーンも多々あるんですが、
説明もなく設定されているある描写は
主人公と同じ環境を体感させてくれるような
技巧が光っているんです。

主に言語についてなんですが、
気付けば主人公のビリー(イギリス言語)が
ヒアリングできる言葉にだけ
字幕が付くんですね。

だからクソ以外の何でもない環境の
クソやかましい言語は、
気圧のように容赦なく閉塞感を与えてくる。
その法則がとても美しい。完璧だった。

あくまでビリーが理解できている言葉を
丁寧に差別化してあり、そこに
意味はわからなくとも感情が伝わるシーンもあったり。

ビリーが、ムエタイしかない!と
決意したきっかけは、
ささやかな愛情であるものの
針の穴から射す光のように
あてもなく心許なく‥。

でもあれが大きなきっかけなんですよね。
ぐっときたなあ。その小さな光を
逃してたまるかと手を伸ばすんです。

あんな地層下のような場所にも
スポーツマンシップが存在する
ということも胸熱だったなあ‥。

ラストシーンのちょっとしたギミックも
ただただ美しかった。
YUKi

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