歩葉戸路素

縮みゆく人間の歩葉戸路素のネタバレレビュー・内容・結末

縮みゆく人間(1957年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

50年代SF映画の中でも最高峰の一つだと思う!

放射能を浴びて身体が無限に縮小してしまう人間の物語
人体が縮んでいくというSFではよくある設定なのだが…
この映画が特殊なのは〝無限に〟縮むというポイント
実はありそうで無かった!?
あと特撮も今見ても凄くリアルでトリック撮影のレベルが同年代の作品と比べても段違いに高い!
ただこの時代にはまだ量子力学が発展してなかったので、縮小されることによりエントロピーの減少=時間の流れが遅くなる…的な
縮小に伴う量子論や熱力学の影響とかの考察はまだ無くて
あくまで時代相応の古典物理学

最初は小人サイズに縮み、徐々にバービー人形サイズ、蟻サイズ…という風に
縮小に伴い周りの世界が相対的に変化していくのが面白い
例えば小人サイズだと何とも無かった飼い猫がバービー人形サイズになると猛獣のように襲いかかり小人人間を食い殺そうとするのとか
実は変化してるのは主人公だけじゃなかった!

見慣れた部屋が小人化することにより恐ろしい魔境に変化し、その辺の蜘蛛が自分の命を脅かすモンスターと化す
この魔境な世界観がめっちゃ面白くて
毛糸で崖(物置棚)を登ったりペンキに張り付いたブラシを綱渡りしたり蜘蛛と闘ったり…
日常の風景が異次元に様変わりする展開がセンスオブワンダーを感じる
アスレチック化した日常品を突破していくのはテレビ番組のSASUKEを思い出してちょっと笑う

ラスト5分辺りで主人公は悟りの境地を開き
実は無限に縮小することは物理法則に囚われた人間世界(有限な世界)からの解放であり神からの貢物だ!…と感謝するという
価値観の逆転に達するのが衝撃的!
特に最後の主人公の台詞回しが詩的でめちゃくちゃ大好きなのでちょっと引用しようと思った

「縮みゆく私は何になるのか?無限に小さいもの?それは何なのか?
極小は極大と同じだ。
その二つの要素が同じ概念だと理解できた。
無限に小さい物と無限に大きい物は同一になるのだ…巨大なループが閉じられるように。
無限の正体が理解できた。
人間の日常世界は有限の範囲でしかない。
それには誕生と終焉が存在するが…
それは人間が作った概念であって虚構である。
もはや恐怖心など消えて全てを受け入れた。
私はまだ存在する。」
(END スタッフロール)

恐らく火の鳥のコスモゾーンの如く肉体が消滅しても宇宙に意識だけは残るみたいな…そんな哲学的なオチ
なんかスゲェ壮大な名作を観た!って気持ちになる!!
歩葉戸路素

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