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グリンチのhrdのレビュー・感想・評価

グリンチ(2018年製作の映画)
3.2
実写グリンチ大好きです。
小さい頃は、グリンチのポップさと意味不明なグロテスクさに魅力を感じ、大人になってからはグリンチのガチめなこじらせ感に心を痛めクリスマスシーズンのたびにこの映画のことを思い出してました。

今回のグリンチは、実写版のようなグロテスクさはありません。
すっきり漂白されて、正しくクリスマスのファミリームービーといった感じだと思います。
かわいいキャラクターとファンタジーな世界観が堪能出来るのでは。

実写グリンチとアニメグリンチは、人間嫌いすぎて娑婆で暮らせず生活保護スレスレ、日頃の楽しみはSNSでの個人攻撃、芸能人アンチ活動な独身男性と、孤児院出身で人間不信気味ではあるものの数少ない友人と交流しつつ投資で稼いでたまの休日はDIYでおうちカスタマイズを楽しむちょびっとひねくれ独身貴族男性くらいの違いがあるなと感じました。

アニメ版を見て思った実写グリンチの凄さは、ポップでファンタジーなんだけど人間のグロテスクさがけっこう生々しく描かれてるということです。
市長のあの底意地の悪さとか、大人になってからみると、「ホントこいつ意地悪やな」としみじみしますし、色々な誇張表現がうまくてちょっとした不気味さも私は感じます。
そして何よりも、グリンチの自己愛と自己嫌悪の狭間の苦しみ。家でのあの激しい一人言が彼の孤独を強調し、精神安定剤を欲する情緒不安定さに涙が出ます。

アニメ版と実写版のグリンチのこの違いは彼の苦しみの根本が似て異なるものだからなのかなと思います。
アニメ版のグリンチにはなんだかんだ理解者がいます。そして街の人々は一言も彼の容姿について悪く言わず…というか無関心です。
アニメ版では他者からグリンチへの悪意がほとんど描かれません。つまり、アニメ版のグリンチは、「自分は孤独」と思い込んでいる彼が案外周りは敵対的ではないと気づく物語です。

一方実写版グリンチは、序盤から彼自身の振る舞いのせいもありますが周囲からの嫌悪と無理解に晒されています。
そして幼少期に経験した、自意識過剰な思春期男子が晒されれば世界を憎むに事足りる黒歴史。
彼が自ら汚い家に住み、過剰に意地悪なことをするのも、自信に対するステレオタイプに無意識に同じ方向へ変化していく「ステレオタイプ脅威」のせいなのではと思ってしまいます。

そういった、彼自身の性格と周囲の差別による苦しみにメスを入れたのがシンディー・ルーでした。
つまり、実写版のグリンチは長い間偏見の目に苦しんだグリンチが初めて緑のモンスターのグリンチではなくフーの一員であるMr.グリンチを見てくれる理解者に出会う物語なのだと思います。

この、物語の持つ意味の違いからみると、
話の流れにあまり無理がなく、良くも悪くも綺麗で優等生なのが、アニメ版。
グリンチの容姿やキャラクターがより映えていて映画に生きているのが実写版だと感じました。

同じキャラクター、同じ型のストーリでもここまでお話の持つ意味(私の解釈ではありますが)に違いがでるなんて、「グリンチ」という物語の奥深さを感じます。
実写版グリンチのレビューのようになってしまいましたが、アニメ版のおかげで色々と考えさせられました。
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