いむら

スパイダーマン:スパイダーバースのいむらのレビュー・感想・評価

4.5
ただ思い出した。
自分が自分の理想からかけ離れていた子どもの頃を。

一人では美容院にも行けなかった。何かを自分の力で選択した覚えもない。愛と言う名の元に与えられる物事を丸呑みすること、それだけが生き延びる方法だった。

どうしようもなくなった時、出会ったのは漫画だった。虚構の世界だけが自分を励ましてくれた。
虚構の世界の彼らはいつも立ち上がり、他人を敬い、努力をして、愛を信じる。彼らは忍者だったり宇宙人だったり超能力者だったりはするものの、決して簡単ではないことを乗り越えていく。彼らが泣き、笑い、怒るたび、自分の魂も同じように打ち震える。

そして、自分に期待を裏切られた時、出会ったのは音楽だったし、同様にして、自分の欠落を見つけた時、小説に出会った。映画に出会ったのは、自分に底知れぬ失望を覚えた時だった。自分はいつだって違う次元の存在に救われてきた。

我々だって壁にくっ付いた指を剥がす方法が必要だ。それは戦うため、何よりも自分自身と戦う時のために。忍者じゃなくても、サイヤ人じゃなくても、スパイダーマンじゃなくても。

この映画に出会ってよかった。
私はまた思い出すだろう。自分が生きている次元と彼らの住んでいる次元が異なることを。でも、いつでも会えることを。

それは漫画であり、音楽であり、小説であり、映画であって、私たちがめくり、再生し、読み、鑑賞することをいつでも歓迎してくれる。だから、ああ、スパイダーマン?あいつは友達だよ。透明にもなれるすごいやつなんだよね。
いむら

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