小骨

響 -HIBIKI-の小骨のレビュー・感想・評価

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
4.0
いつもは観ないが友人の紹介で久々の邦画。
権威ある人にすぐへこへこしたり、スキャンダルに過敏だったり、「そういうものなのよ」って圧力をかけてくる「大人」とか「社会人」の描写の生々しさは邦画じゃなきゃ描けないなとは思う。
で、それに対して真っ向から慣れ合い拒否する主人公がどう立ち回るのかって言うのが本作なんだけど、
正直、見る人によって、どんなテーマだったかの解釈が大きく変わると思う。(…狂い咲きサンダーロード?)

…ので、ズンときたセリフを2つピックアップしてあとはネタバレラインより下に書く。
「惰性だよ。いずれお前にもわかるときが来る。自分の世界と現実との折り合いってものがな」
「ねぇ約束して!あんなこと二度としないって!」



---以降、若干ネタバレ気味な、トーク/考察ネタ---



・メインテーマはなにか
物語の構成としては、主人公に対して、二つの対比構造があるかなぁって。

ただ本を読のが好きで、書きたいものが多くあり、
誰もに認められるほどの文才を持つが、
相手の事情を鑑みたり、社会の一員として慣れあうことが一切できずに暴力で解決してしまう女子高生の主人公に対して、

主人公に才能を見出してなんとか出版したいし主人公にいざこざを起こさないことを第一にしたり、出版で儲けをとるのを第一にしたり、あら捜ししてそれら妨害したりするのを第一にしたり、事情や慣れあいを覆そうとも思わない大人、
の対比の構図。

書きたいものをただ書くのではなく、書けないのに書く、書きたいものとは別なものを書く、事情に自分を追い込んでしまった作家、
の対比の構図。

で、主人公を抜くと、ただ生々しいだけの現実になるなぁって。
つまり、事情をかかえる作家と、事情を抱える大人社会に対して、「もともとやりたかったのはこうで、そんな事情なんて本当に意味があるのか?才能さえあればそんなものすべて吹き飛ばせるのでは?」っていうのが本作のメインテーマかなって。
そのために用意された「慣れあわない」かつ「自分の力を示せる暴力と文才を持つ」という設定を持ったメアリー・スーが主人公かなって。

例えるなら、狂い咲きサンダーロード。
大人社会に対して、「そうじゃないだろ」「俺はそうは思わない」と若さのエネルギーだけで立ち向かっていくヤンキー。
それをヤンキーから作家に置き換えた感じ。

でも、そういうifに対して、最終的に、
「私の事は我慢しようと決めてた。でも友達が傷つけられたから」
「また次の作品ができたとき、あなたに最初に読んでほしい」
とか、最終的に、主人公にも守るものができていって、
「大人社会」とのなれ合いを強制されていくことになる兆しがわずかに見えるのが、
作品の終わりとして、メアリースーに適切な死の可能性を示していて良いなって。

(主人公にも家族がいたのにあの性格で家族に何も言われなかったのか、とか、あれだけ本を読み漁っておいて大人社会の汚さとかなれ合いとか一切学ばなかったのか、とかのツッコミがないあたりがメアリースーなのかなっていう)


・「自分の世界と現実の(ry」のあたりの会話の疑問。
「(書きたいことがないのに)じゃあなんで書いてんの?」って主人公が言った瞬間、
自分でも自分の発言に驚いてんだよね。とっさに周りの人を見渡すレベルで。
それって今までの主人公の動きから考えると少し、解釈が合わないなって。

自分には書きたいものがないという経験がないから聞けた?
相手を傷つける発言だったと気付いたからとっさに自分の口を押えて周囲の人を見渡した?
周囲の人を見渡してヘルプを求めるという動作はどこから来た?
一個目の仮説まではありうる。そのあとの二つ目三つ目の仮説が真だとすると、処々の立ち振る舞いは、様々な立ち振る舞い方を知った上での「自身へのキャラ付け」ふぁったということになるけど、大丈夫か。

・最後の踏切のシーンへの疑念
大人社会に対して舐めてかかるのは、自分にはそれだけの文才があるからだという自負があるのはわかるが、
自分の手前で止まるかわからない電車の前に立ちはだかって「私はまだ死ぬつもりはない」って言うのは、
物理法則に対して舐めてかかってるのか?

そこから導けるのは、
「自分が違うと思っていたことに反抗してた」わけじゃなく、
ただ「『相手はなんでもよくて』自分の力がどこまで通用するか見たかっただけ」という。
この程度の運試しで折れたりはしないという意思表示なんかもしれへんけど、特に挑む必要がない上に、試すのが自分の才能でもなくてただの運ってどないやねん…大物感は出るけど…みたいな。

・作家に必要な感性とセンス
作家として人に影響を与える、世界を変えるのに
「事情」に揉まれない、ってことが必要なのかなって思ってたけど、
「作者ごときが、本の評価決めてんじゃねーよ!」
っていうのもひっかかるね。
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