千紗

人魚の眠る家の千紗のレビュー・感想・評価

人魚の眠る家(2018年製作の映画)
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序盤で苦手なタイプの篠原涼子かもしれない…とは感じていたけど、感情振り乱して家族に言い募るシーンはめっちゃ不快で、こんな在宅療養の現場に立ちあいたくない…って思ったから篠原涼子やっぱりすごい(?)

脳死にまつわる問題がいくつも織り込まれていて、映画の尺の問題とか原作にはもっと詳細な描写があったのかもしれないけど、母親⇄娘の輪が家族や関係者まで広がる過程に、きょうだい児の心境の変化(これにはもう少し歳月を要するかもしれない)、祖母の母親へのケア(孫への贖罪とか献身ではなく)、在宅ケアスタッフとの関係によって母親がケアリングについて理解を深めるシーンとかがあって欲しい気もした。でも、それがあったら却ってサスペンスにはならなかったかもしれない。

序盤で亡くなった娘の脳死宣告を受けて帰宅した後に、母親が娘の純真無垢エピソードを話した時の父親の「優しい子だったんだな…」って発言に、あれ?もう離婚後別居も長くて子供はもはや他人なのか…?って最初は戸惑ったけど、ところどころ父親のクズっぷりが散りばめられてて、最後の娘を庇うシーンに違和感だったな…、でもそこが、母親の言う「言い訳くらいして欲しかった」に繋がる根本的な父親の性質なのかなあ。視聴者としては、父親の違和感や研究者の恋人の直感的な恐怖感が世間一般の考え方と再確認することで、母親や研究者の狂気を際立たせるんだろうけど、父親が娘のケアをするシーンが一切ないところも、狂気を駆り立てる一因だっただろうに。これは原作者の価値観なのか、あるいは、現代の小児在宅療養をリサーチした上での問題提起か? サスペンスだから仕方ないのかもしれないけど、孤軍奮闘する主介護者への温かい眼差しも欲しかったなあ。

高齢の親の治療選択だって家族じゃなくて本人の意見で決めて欲しいのに、小児や若年者の臓器提供の意思決定なんて家族に委ねないでくれよって思うよな。祖父の、父親の決断の結果は評価するくせに、決断の過程に寄り添わない感じ、父親ももういい歳した大人なんだからっていうのもあるだろうけど、エリート男性社会に生きる脱線できない男性の苦悩にも見えてくる。
千紗

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