JoeyOgawa

万引き家族のJoeyOgawaのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.8
単に家族を描いているとか普通のヒューマンドラマにありがちな“絆”がテーマとかそういうぬるいものではなく、これは人類有史古来からある生活共同体“家族”の在り方や“幸せ”の在り方を根元から揺さぶる映画だった!!

主人公が『そして父になる』の庶民系お父さんを演じたリリー・フランキーとあり、基本はあのリリー・フランキー側のドラマであるが、そこに主に子供をメインにした万引きと幼女をうっかり拾ってきてしまう事案や途中のある事件、この家族の構成にクライム要素がてんこ盛りになっている。親子の万引きのシーンはロベール・ブレッソンの『スリ』そのもので、二人で分担したチームワークはお見事。こうしたクライム要素はかつての『誰も知らない』以上。よく見ると10歳の男の子も『誰も知らない』の柳楽優弥にちょい似である。

この映画の肝になるポイント・心理は作中で樹木希林が演じる祖母がボソッと言っていた。「本当の家族だから“期待”してしまう」と。そこから、メインである5人家族にたいして幼女をうっかり拾ってきてしまう事案以外にいろいろと家族を怪しむ二重構造になっている。生まれてくる息子・娘に自分よりも豊かに裕福により良い生き方を望んでしまう。他の家族と比べてしまう。そこに『そして父になる』の福山雅治演じる男性の家族や『万引き家族』の少女の親元みたいに「裕福なはずなのに子供が喜んでいない、不幸」という現象が生まれる。そういう“家族”と“幸福”を考えさせられる映画であった。

いい職業に就く、いい大学に入る、より良い生活をおくりたいという“期待”のインフレーションが幼児虐待や家族の不幸、見栄、世間体を生み出している。『万引き家族』の柴田家はこうした従来の幸せ像、家族像を取っ払った所にあるデフレスパイラル家族ではあるが、意外と楽しくある、という現代に対するパラドックスである。

『三度目の殺人』はサスペンスだけど是枝色が薄かったし、『海街diary』や『海よりもまだ深く』は是枝色は強くともインパクト不足。『万引き家族』はようやくこの二つが釣り合い、『誰も知らない』や『そして父になる』よりもインパクトがある。納得の是枝映画。
JoeyOgawa

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