m

彼が愛したケーキ職人のmのネタバレレビュー・内容・結末

彼が愛したケーキ職人(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

"足るを知る" 心を


画面に映らない、ストーリーとして明かされることのないトーマスの過去や人生、背景を考えるとこの教えの通りに生きてきたんだろうな…と悲しくて堪らなくなってしまった。「仕事と家がある。それで充分だ」と答えた彼を見詰めるオーレンの瞳が憐れみに満ちていて、それに気づかないトーマスに切なくなる。と思ったら彼はトーマスの為に今ある家族や生活を捨ててトーマスの元に向かおうとしてたのだと分かって、私の中でよかったね、と思えてしまった……。トーマス側の立場からこの作品を観てしまったから。
オーレンに対する想いも、"足るを知る"で、彼と月に一度逢えるだけで幸せ、彼に妻子があっても何も求めず限られた時間を一緒に過ごせるだけで充分だと当たり前のように思ってたんだろうな。


トーマスは"人の求めるもの"になるのがすごく上手で、だからこそオーレンともアナトとも彼らの息子ともうまく寄り添うことができたんだよな〜。自分から多く求めない、相手の求めることには応えてあげる、ていう、相手にとって"居心地のいい相手"になるのがとても上手で……そんなトーマスが生まれて初めて自分から求めに行ったのが、"オーレンが愛したもの"だったんだなって思うと、胸が苦しくなった。"オーレンの愛したもの"なら自分も大切にできるし、彼がいない後も、彼の一端に触れることができると思ったのかな?普通の人だとならない発想だと思うんだけど、トーマスならそう考えても、そしてそれを心から大切にすることができても不思議じゃない、って思わせてくれるような人だった…。でもトーマスが生まれて初めて求められて、じゃなくて、自分が求めて、寄り添った人たちに拒絶されて、国から出て行けと言われてしまって、泣いてしまうのを観てとても悲しくなった……。トーマスをひとりにしないで、幸せにしてあげて欲しいよぉ……。


て言う、完全にトーマスに肩入れした感想を書いてしまったけど、とてもとても良かったです。

シーンがどれも綺麗だったのと、ある意味最初からわかっていることを紐解いていくような新しい観方ができて面白かった。中盤の謎が解けるシーンは息を飲んだ。

うぅ今も思い返して胸がいっぱいだ…。
m

m