みおこし

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのみおこしのレビュー・感想・評価

4.7
(※歴代最長文です!笑)
15年前、たまたまCSで放送していた『パルプ・フィクション』を鑑賞し、小学生には早すぎる強烈な描写に少し戸惑いを覚えつつも、初めてタランティーノという監督を認識。中学に上がり、再鑑賞してその秀逸すぎるダイアログ、絶妙な音楽の使い方、見事な緩急のつけ方、そして一度見たら忘れられない強烈なキャラクターたちに改めて心を射抜かれ、これこそ"私の好きな映画"と痛感しました。高校で『イングロリアス・バスターズ』を鑑賞してこれまた傑作で、セリフを覚えるくらい何度も鑑賞...。彼の作品を片っ端から観て、サントラも擦り切れるまで聴いて。もうどうやったら地球上にこんな五感がシビれる映画を作れる監督がいるのだろう、と彼への愛を語ればキリがありません。
このたび奇跡が起きて本作のジャパンプレミアに当選。レッドカーペットでサインをいただき、憧れの方を一目見ることができました。生レオ様もすごく嬉しかったのだけど、やはり私にとっての神様にお会いできたことは筆舌に尽くしがたい経験でした。号泣じゃなくて、頬を涙が伝うという本当に神々しいものに触れた時の泣きをかましてしまったのも良い思い出(笑)。
...では、前置きがスーパー長くなってしまいましたが、本題に入ります!!

落ちぶれつつある西部劇のスター役にレオナルド・ディカプリオ、スタントマン役にブラッド・ピットが扮して、1969年のとある数日を描いた本作。
1960年代後半は映画業界自体がテレビの台頭によって斜陽気味で、生まれる作品も"アメリカン・ニューシネマ"などかつての古き良きハリウッドの頃とは毛色が違う極めて現実的かつ暗い題材を扱ったものが多かった時代。さらにベトナム戦争が激化し、平和を求める新しい生き方が強く叫ばれる中で、ヒッピーたちの中には良からぬ発想をする者たちも出現。その代表格がかのチャールズ・マンソンであり、彼のシンパによる女優シャロン・テートとその友人の殺害事件はハリウッド史上最悪の惨劇として、今もなお人々の記憶に痛ましく残っています。この映画は、この事件とその背景をまず理解した上で観るべきだなと思いました。

もともと映画は、人々を励まし喜びを与えるものとして愛されてきたはずが、いつしかそのあり方も変化。かつては良しとされてきた勧善懲悪の物語も、見方を変えれば一方的で暴力を煽るものとしてみなされたり、そもそも最新鋭のテレビ番組と比べると設定や描写が時代遅れとみなされたり...。鑑賞者の期待の変化に応えられないまま、銀幕から姿を消したスターも数多くいたはず。レオ演じるリックも自分の演技やキャリアに対してまさに葛藤し、かつて演じたようなヒーローや悪役像からの脱却を迫られているわけです。
時に相棒のクリフに泣きつきながら、それでも不器用まっすぐに真の役者として打ち込む姿は時に笑えて、そして時に泣けて...。レオの演技は、そんなこの時代のスターたちが皆抱えただろう悲哀がにじみ出ていて、素晴らしかったです。
また、ブラピ演じるクリフも自らのプライベートのことだったり、そもそもスタントマンとしての仕事も紆余曲折あったりで。
日々映画のために身を捧げ、苦心している2人の生々しい姿を見ることで、より私たちが普段目にする映画の"夢"の世界がいかに関係者の時間や情熱を注がれて創り上げられているのか、ひしひしと伝わりました。だからこそ、完成品を観て喜ぶ人たちの笑顔を見たら感慨もひとしおなんだろうなぁ〜。

そんな苦労を重ねて出来上がった映画たち。銀幕の向こうのヒーローや悪役たちは、皆スクリーンの中で永遠に残り、生き生きと動き続けます。本作において監督は、永遠に残したい"何か"があったのだろうなと。
よく監督は現実の世界に虚構を混ぜますが、これほどそれが見事に昇華した作品は他に無いなと。ラスト15分は衝撃的な反面、世界中の誰もがそうあってくれと祈るだろうし、何よりあまりの怒涛の展開にもはや笑ってしまいました。でも、そんな激しいシーンが終わると、ふと大事なことに気付かされ。タランティーノが本作で観客に「忘れないで」と伝えてくれた熱いメッセージを思うと、涙が止まらない深すぎるエンディングでした。

『イングロ』も『ジャンゴ』も然りまたもや過去の世界観を徹底的に再現していて、タランティーノ少年が実際に体感した1969年を事細かにスクリーンに蘇らせています。当時のクラシックカーやネオンサイン、ファッション、映画のポスター、TVの広告...。そして相変わらず音楽もストーリーとの絶妙なマッチング。あえて車から流れてくるラジオの音に寄せている点ももう...。サントラは毎回セリフまでしっかり入りますが、今回はラジオのDJ音源がかなり入っててリアルそのものでした。
これこそ、誰よりも映画を観てきた監督ならではの細かすぎるこだわり。作品制作への愛を感じます。
予告編に登場しているブルース・リーはじめ、映画ファンなら思わずニヤリとしちゃう描写やキャラクターも目白押し。キャストも主演以外も超豪華ですが、その登場の仕方もいちいち贅沢で憎い!!(笑)どこまでも無垢でキラキラのマーゴット・ロビー扮するシャロン・テートもまた素敵でした。

タランティーノ監督の映画愛、そして映画業界を支えてきた先人たちへの熱いリスペクトを感じる最高傑作でした。歴代のタランティーノ作品で一番、見事に個人的オールタイムベスト入りいたしました(笑)。どちらかというと、ダイアローグが『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』などの彼のキャリア初期の作品に立ち戻った印象がありました。
気持ちが整理できていない部分もあるので、いつか書き直すかもしれませんが取り急ぎの感想です。2時間40分の長尺ながらあっという間でした!
はあ、改めて一生ついて行きます、監督!!
みおこし

みおこし