tsura

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのtsuraのレビュー・感想・評価

4.0
90年代をリアルタイムで知る者にとってこの2人が共演するなんて想像出来ただろうか。

少なくとも少年時代がガッツリ90年代な私にとってこの2人の共演なんて妄想レベルのレオナルドディカプリオとブラッドピット。
それだけでもとんでもないのに。

作品はそんな2人の名演と相まってタランティーノの"ハリウッドラブ"でもってまさかここまで映画愛で私達を包んでくれるとは!

わたしはこの作品、凄く堪能させて頂きました。

それを単なるノスタルジーでは片付けず…確かに懐古主義と言ってしまうとそこまでだがこの時代(1969年)を体感していない1人の人間だけど…この時代へタイムスリップした様な気分に浸っていられた。

ハリウッドが誇る栄華だけを見せつけるのでは無く、まさに監督が生きた時代の闇(ラブ&ピースな時代のある意味始まりでもあり終焉でもある)と対峙する為に様々な仕掛けを施してチャールズ・マンソンという"謎"と事件の不可思議に近づいておりその辺りの描写も○。
長時間を忘れさせる素晴らしい出来だった様に思う。
(個人的 彼のベストはジャンゴ〜なんだけど笑)

それにしても…冒頭に挙げたビッグスター2人を擁して何たるか!
嗚呼、人生とは運命とは皮肉なのだろうか、と叫んでしまいそうであった。

そもそもシャロン・テートとあまりにも密接しないストーリーが延々と続く。

しかし介在すらしないそのドラマを渋い語り口で惹きつけて魅せる。
彼等の裏に潜むドラマにはリック・ダルトンとクリフ・ブースというキャリア下降線を辿る2人にはハリウッドの影を一身に背負わせてる様に見えなくもない。
彼等の心中に去来する寂しさと侘しさを感じさせる。
だけどそれこそが誰にでも通るだろう紆余曲折、喜怒哀楽の「人生」という名の舞台の上あるドラマなんだと痛感・共感させられてしまうとは。

もう恐れ入るしか無い。

そんなダルトンが際立つ程、厭世的では無いにしろ、こんなミッドライフ・クライシスで岐路に立つ人間がまさか中盤で人生を子供相手に憂うところなんか…タランティーノの心の叫びとも受け取れてしまったと同時に齢を重ねる事の切なさを痛感したような。


でもなんだかんだでタランティーノは色々練りに練り考えたように思う。

だからこそ「イングロリアス・バスターズ」ではあんなにお喋りとバイオレンスに夢中だったのに、ここでは所謂彼特有の「旨味」は丁度良い程度に馴染んでいるのだから、彼はかなりこの脚本に対して神経を使ったのではないだろうか、と思ってしまう。

そもそもこの作品の発想がスタント・ダブルの姿から起点している事はパンフレットを読んで知ったのだが、ホントに狙い所が上手い。
それだけで話を帰着させようとするのは凄く難しくて単なる俳優の悲哀だけなら他の監督がすればいい。

でも一筋縄にならない所をどう調理するのか、そこが注目点である。

だから例えばあの"事件"を織り交ぜてるわけだけども、でもここで出てくる俳優達の"もがき"が実によく表現されており面白おかしいし、そして何より1969年の出来事をハリウッドの分岐点と捉え且つ御伽噺の様な表情とリアリティあるファンタジーの境界線の上にこの人間のドラマを並行させている。

それは矢張りこの監督だから成し得た創造の表出であるはず。


話が行ったり来たりで悪酔いしそうだけど🤮勿論、ディカプリオ演じるダルトンの一世一代の演技は迫真だし、他にもマンソン・ファミリーと接触する流れなんかはまるでホラーでも見てるような緊張感だった。


私自身のお気に入りはシャロン・テートが夫の為にと「テス」の原作を購入する件で思わず泣いてしまいそうであった。
なんて粋な計らいなんだと、そしてなんて旦那想いの愛に満ちたシーンなんだと。
そして、これをマーゴット・ロビーが画面いっぱいに幸せを感じさせるではないか。

この作品と現実との間にあるけっして埋める事の出来ない溝にまた涙が零そうであった。

この作品を見たとして彼は、ロマン・ポランスキーは何を想っただろうか。



嗚呼、それにしてもこの作品に対して全然自分の言葉が纏まらなかった。

まぁそれだけ多様性に富んだ作品なわけだし、まだまだ自分の映画偏差値が低いということなのだろう。

いい勉強になりました!(そんな終わらせ方ダメでしょ、って誰かツッコミ入れて)


余談だけど劇中の西部劇「bounty law」の長編化(ミニドラマ等でのシリーズ化)にタランティーノ監督自身が脚本をある程度既に執筆を進め、その映像化に意欲を見せてる様で。

ディカプリオがあの役を演じるかは別としてあの凝ったディテール、世界観にはまた触れてみたい。

それよりタランティーノさんよ。

ホントにあと一本で監督業を退くのだろうか…それがホントならなんとも寂しい😔
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