MasaichiYaguchi

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
セルジオとセルゲイという同じ語源を持つ2人の男が、国や民族、大気圏さえも越えて友情を結んでいくのを描く本作は、独断や偏見、不寛容が横行する今の世の中で、どうすれば希望を見出すことが出来るのかを〝大人の寓話〟として描く。
この2人の男は、1991年の東西冷戦時代の終焉とそれに伴うソ連の崩壊によって苦境に立たされている。
ソ連崩壊の余波を受けて経済危機に陥ったキューバの大学で教鞭を執るセルジオは老いた母親と幼い娘を抱え、日々の糊口を凌ぐのも儘ならない。
一方、宇宙飛行士のセルゲイは、ミール宇宙ステーションに滞在中にソ連が消滅してロシアになってしまったことにより帰る国を失い、帰還無期限延長を言い渡されてしまう。
この袋小路にいる2人の男にはモデルがいて、セルジオは生活苦に喘ぎながらも仲睦まじく家族と過ごした当時のエルネスト・ダラナス・セラーノ監督で、セルゲイは〝最後のソビエト連邦国民〟と呼ばれた宇宙飛行士セルゲイ・クリカレフ。
普通なら交わる筈のない2人の男は、セルジオの趣味である無線で奇跡のように繋がっていく。
1961年生まれのエルネスト・ダラナス・セラーノ監督は、私と年代が近いせいか、当時我々が「ハム(HAM)」と読んでいたアマチュア無線を効果的に映画で使っていて懐かしさを覚える。
そして、この作品には私が10代の頃に観た「カプリコン・1」が台詞で出てきたり、「2001年宇宙の旅」のパロディもあったりして、宇宙を舞台としたSF映画へのオマージュもある。
セルジオは、ソ連崩壊で窮地にいる妻子のもとへ、地球に帰還したいセルゲイの為に壮大な奇策を実行し、更に自らの家族も貧困から脱する手立てを講じていく。
この映画では何回もミール宇宙ステーションから見た地球が映し出されるが、国境、人種、宗教、言語の違いで「境界」を設けることが如何に愚かなことなのかを実感させてくれる。
そう言えば、セルゲイのモデルであるセルゲイ・クリカレフは2005年に放映された食品メーカーの即席麺のTVCMで、国際宇宙ステーションから「NO BORDER」というキャッチコピーと共に登場したことを思い出しました。