MasaichiYaguchi

ギャングースのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ギャングース(2018年製作の映画)
3.9
「一寸の虫にも五分の魂」と言うけれど、親の虐待や貧困等で犯罪に走って青春期を少年院で過ごしたサイケ、カズキ、タケオという3人の若者がどうしようもない現実に向き合いながら、何とかそこから這い上がっていこうと悪戦苦闘する様を裏社会を舞台に描くクライム物は、バイオレンスに彩られた彼らの青春友情物語でもある。
彼らが閉塞感溢れる社会で生き抜き、這い上がる手段として選んだ〝シノギ〟は犯罪者をターゲットとした〝タタキ(窃盗、強盗)〟稼業。
タイトルの「ギャングース」は「ギャング」と「マングース」を組み合わせた造語で、毒蛇を食うマングースのように彼らが犯罪者を〝食う〟のをなぞらえたもの。
彼らがターゲットとするのは振り込め詐欺(通称:オレオレ詐欺)集団で、彼らの〝アガリ〟を狙うのだが…
この作品は、先に挙げた「児童虐待」「特殊詐欺」以外にも現代社会に静かに蔓延して深刻な状況になっている「多重債務者」「ワーキングプア」「ブラック企業」等の社会問題を然りげ無く盛り込んで浮き彫りにしている。
社会的に最弱の3人組が〝下剋上〟をやればやる程後戻り出来ない深みに嵌って二進も三進も行かなくなるのだが、果たして「窮鼠猫を噛む」ことが出来るのか?
この作品を観ていると、劣悪な家庭環境によって未成年犯罪者となり、社会の最底辺を蠢いている彼らと、最強の犯罪組織の幹部を張っている者との〝差〟というか〝違い〟は、ほんのちょっとした〝巡り合わせ〟や悪に成り切れるかどうかの〝気質〟のような気がする。
現代社会はお金がないと〝まとも〟な生活は送れないが、この作品はお金よりももっと〝大切なもの〟を描いている。
本作はルポライター鈴木大介さんによる原作・原案を肥谷圭介さんが作画した人気コミックを映画化したもので、ストーリーはフィクションでも、ここで描かれたことや人々は我々の日常と地続きであることを隠喩するラストが印象的だった。