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愛しのアイリーンのmotoietchikaのレビュー・感想・評価

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
4.5
なんだろう、この身体と心が噛み合わない歯がゆさは。それらを切り売りしてまで生きてゆくことの哀切よ……。
舞台挨拶で主演の安田顕さんが「ガツンと鈍器で殴られたような」と形容していたけど、それが的を射ているかどうか、果たして分からない。鈍器なのか? これは。人を芯から揺るがすこれは。

映画を観終えてからボロ泣きした顔をトイレで洗い、ボーッと喫煙所に入るとそこにはまさかの監督と原作者がそこでアイリーンの話をしている!「 ○○のシーンのツルさんの顔が良かったよ」みたいな話をしている! で感想の一つでも言えれば良かったのに、何も言えないまま煙草に火を点け……、
そこでやっと、自分の手が震えていたことに気がついたのだった。

岩男の母親・ツル役を演じた木野花さんが、この映画を観終えたとき「私は何を観ていたのか?」と自問したらしい。
果たして私は何を観たのだろう?

この作品は国際結婚にまつわる諸問題を描いている。特に主題と言えるのは「国際結婚は金か愛か?」といった問題で、それが明確に見えてくる序盤の結婚シーンあたりで「金か愛かなんて、ベタな話を……」と思うのだけれど、まだ登場人物たちのなかに底知れなさを感じる。その内面の底知れなさを信じて映画に身を委ねていると……もう137分があっという間に過ぎていった。

「金なら売春、愛なら結婚」という言葉が作中にちらつく。それらしい言葉。でも本当に? という疑問は確かにあって、その根っこを模索する人々の物語だったのかもしれない。

結局のところ、私は人物の魅力に当てられたのだと思う。
家族のため、お金のために国際結婚をしたアイリーンの強かさは、次第に岩男やツルをも包むことになる。彼女にとって、この二人も家族になっていたのだと思う。

愛のない結婚をしたのは岩男のほうでも同じで、彼もまた持て余す性欲と不器用さで他人を傷つけずにはいられなくて……でもそれはただ「オマンコぉぉぉおおぉお!!!」がしたかったわけではないはずだ。彼は愛すべき相手とその方法がわからなかっただけなのだ。アイリーンと出会って、結婚してようやく彼は愛すこととはいったい何なのかと考え始めることになる。

ツルさんは……愛すべきクソババアだ。
というか登場人物だいたい愛すべきクソ馬鹿野郎だよホント。

* * * * *

試写会の演出も面白い趣向が凝らされていた。
主演二人(安田顕×ナッツ・シトイ)の登壇では結婚行進曲が流れ、ヴァージンロードを歩く頭上には花びらが振りまかれる(しかも新婦はウェディングドレス! 綺麗!)。
安田顕ファンクラブの層が厚くて、黄色い歓声が上がる上がる。指笛なんぞ吹いてる人もいる。多幸感にあふれる登壇シーンで、映画への期待も高まる。

でもその後のトークで監督が「入場したらみなさんの笑顔で不安になりました……。全然そういう爽やかな恋愛映画じゃないので!」と語ってて笑った。
原作読んでない(友達からかれこれ7年くらい借りたまま読んでないことを思い出した。ごめんよ……)のでどんなもんか分からなかったけれど、確かにその通りだった。
でも最後まで観終えてみると、この多幸感あふれる演出にも、これも一つの真実だよなぁ……と思えて、泣ける。

この映画のエンドロールの向こうに、私はその幸福な夢を見たよ。

* * * * *

Filmarksさんから試写会のチケットをいただきました。ありがとうございます。
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