Iri17

ここは退屈迎えに来てのIri17のレビュー・感想・評価

ここは退屈迎えに来て(2018年製作の映画)
4.3
周りの人達の前評判でこの映画は退屈だと聞いていたけれど、僕は高く評価したい。人生における退屈さは人生で最も価値のあるものだと思ってるからです。

ワンカットがかなり長回しで、全編がほぼ会話のみで構成されているこの作品は、確かに人によっては「退屈」なのかもしれない。しかし、僕は声を大にして言いたい。人生は退屈であり、退屈こそ本当に価値のあるものであると。

この作品に漂うデカダンス的な空気感、僕はこれがすごく好きだ。舞台の富山の典型的なファスト風土化された街並み、東京への羨望と地元に漂う停滞感、過去に固執する者と何者かになりたい者の物語、これは田舎に生まれ育った僕にとって自然な光景だ。全てが無意味に彩られた街並みと登場人物から醸し出される虚無感、またその虚無感を否定しようとする気持ちが、長回しと会話劇に象徴されているのは、僕のような人間には美しさを感じるのだ。

青春時代の楽しい日々と、一切は無意味であると薄々気付いてしまう将来への不安という心の機微、偏見かもしれないが、この気持ちは都会に住んでいる人には判り辛いのかもしれない。東京の持つ虚構性と田舎が持つ虚無性は違うものだと思うからだ。
田舎に住む人間は、「退屈さ」から逃れる為に東京に憧れる。しかし、決して東京はユートピアではないし、中身は空っぽなのだ。
主人公わたしは知っている。青春の美しさと「退屈」の価値を。東京に出たことのない友達は知らない。あたしは青春という過去に囚われている。しかし彼女は停滞することの価値を知っている。

廣木隆一監督は『彼女の人生は間違いじゃない』において、デリヘルとして働く女性の人生を肯定した。
今作でも何かになりたかった人、虚構への羨望を持つ人、過去に固執する人、平凡な幸せを掴む人、夢を持って踏み出す人、全ての人たちを肯定的に描いた。なぜなら「楽しむこと」が人生の価値だからだ。平凡でも、大きか夢でもいいのだ。

この作品には何人かの俳優が明らかに長回しに耐え切れず途中で噛んでしまったり、抑揚を間違えてしまっているのだが、長回しはこの作品のテーマである停滞感や退屈さを象徴的に描くのに非常に有効な手法だ。橋本愛や村上淳らキャリアの長い俳優たちはともかく、何人かが実力不足を露呈させてしまっているのは残念だが…。
フジファブリックの音楽は映画音楽としては非常に素晴らしいのだが、歌詞が付くと非常にダサくなるので、ポストロックを追求するべきだと感じた。

上記の理由で、映画技法的な面からは高く評価できないし、万人ウケする映画ではないのは間違いないが、『桐島、部活辞めるってよ』や『勝手にふるえてろ』などのその先、青春のその先に興味がある人にはオススメできる秀作だと思う。
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