菩薩

クリシャの菩薩のレビュー・感想・評価

クリシャ(2015年製作の映画)
4.3
『アングスト/不安』なカメラワークとハネケの手触り。コミュニケーションは逐一分断され他者は単なる脅威と化す。間接的にグロテスクな表現と、いつ破裂してもおかしくない爆弾への導火線がチリチリと音を立て続ける。序盤からひたすらストレスフルな描写が続く、犬に吠えられ、デジタル機器は言う事を聞かず、男共は手伝いもせずに遊び呆け、探し物は見つからず、優しい言葉をかけてくれると思った義弟はいきなり手の平を返し詰め寄り、老いた母は私の存在を覚えてすらいない。どうやら酒とクスリで人生を棒に振ったらしく、息子との縁も断絶し親類とも遠ざかっていたであろう人生詰んでるメンタル極限おばさんの今日もダメだった一日。今日こそはと希望を持って臨んだ分だけ絶望は深く、細い綱の上をコップにひたひたに入れられた水を溢さぬ様に慎重に歩いて努力も遂には破綻し爆発する。分かる人には身に覚えしか無い一日だろうし、そうでなければ単に悪趣味に映るかもしれないが、時系列すら(多少)ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた混沌にぶち込まれる謎の快感がある。劇中のストレスフルな状況に合わせてか場内もかなりストレスフルであったが、とりあえず#犬は無事とだけは言っておきたい。もはや手の届かぬ幸福を目の前で見せつけられる地獄、身近な人間が最大の敵に代わる絶望、産まれたこと自体を後悔していそうなクリシャの地獄はこの後更に広がりを見せる事だろう、ひぃ…苛烈…。ストレスで人間は老ける。
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