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ヘレディタリー/継承のまるのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.8
 いい感じで怖かった。途中、一時停止を繰り返さなきゃ見れないほどに…。



 一方で、''異質''が自分の想像し得る''現実''を超えていった時【これはファンタジーとして見た方がいいの?】 【リアル路線で見たらいいの?】と分からなくなって、脳にロック(一時的思考停止)がかかっちゃうことがホラー映画を見る時にはよくあって、この映画も(限りなく少ないが)例外ではなかった事が残念ではあったかも。

特に2点。故の-2。でもそれだけでした!






※以下、ネタバレ含みます






1. 顔を怪我した長男が起きた時、CG丸出しの母親が壁を横に「流れて」行くシーン。
横に滑らかにスライドする場面が滑らか過ぎて、ドアの段差が感じられず急に冷めてしまった。そこはゴキブリの様に「這って」移動してよ!他のシーンでは美術・フレームワークともに凄く世界観にこだわりが(素人の俺でも)感じられるのに、そこがすごく残念だった。その後、母親も子供を狂気じみた様子で追いかけたり、巧みなカメラワークで屋根裏に頭を打ち受けたりするシーン等母親の「異質な生」が感じられる場面が良かっただけに、どうしても受け入れられなかった。
*その後高床式の離れに母親が、これもまた同じくCG丸出しで浮遊しスライドしていくシーンに関しては、神秘的な結末を歩む長男への未来を暗示している様で個人的にOK! ある種母親の「死」から「転生」へと分岐するところだからね。幻想的でも良いかな。
2. その離れで母親が長男を見つめながら自分の首を刺しまくるシーン。これもCG丸出し感がして嫌だった。音は最高だったのに。
視聴者を離さない様に「限りなくリアルな気持ち悪さ」にこだわってくれてたのに、その2点だけ目に付き気になってしまいました…。なので、-2。


それ以外はこだわりが随所に感じられて、凄く怖面白かった!



特に良いところは、設定が親代わりの祖母の介護する自分にどハマり!障がい者の妹、産みたくなかったが親に言われて産んだ長男に対しての母親に対する態度がこれまたリアルで最高だった。
それもそのはず。監督の体験した家族構成が元ネタになっている様で。だからこんなリアルなのか!
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ひどいと思うでしょ?俺も羽田圭介の『スクラップアンドビルド』を初めて読んだ時、介護する祖父に言葉で強くあたる母親を「なんてひどい奴だ!」と思ってた。
でもいざ自分がしてみて、どうしても言わなければ自分の精神がおかしくなる時ってのが少なからずあるんよな。そして、大好きな相手に言ってしまった自分に対してまた自己嫌悪に陥る。言われた本人は認知症だから、言われたことすら覚えてないんだろうけど。言った本人は記憶してしまうのよ、いつまでも。俺は認知症でもアルツハイマーでもないから。
自分も昔は、家族を老人ホームや病院に入れたっきりにする人達を「酷いやつだ!」と思ってた。その人の残した家等の資産(メリット)を享受するなら最後まで看取れよと。それなりの犠牲払えやと。でもここまで大変なことを知って、ある意味で施設に預ける人ってのは家族と「今までの関係」(夫と妻、親と子等)を保ちたいからお金を払って必要以上に大変な事を他人に任せているのかなと思った。''無料''でし続けるっていうのは想像以上にキツいんよな。でも、100%・綺麗事だけじゃやっていけないんよ。その辺が非常に上手く、細かく描かれていた。
それは映画の登場人物の関係性も同じ。親は子を(なるだけ)任意のタイミングで作れるが、子は生きる決意が固まった状態で産声を上げる訳じゃないしね。(本作の母親は親に無理矢理産まされた様だが、育児は放棄しなかった様だ。)だから、18までは子に何を言われようが''無償''の愛で育ててあげようと言う覚悟?建前?は今の俺自身も持っているが、こんな事をされても長男を愛せるのか? 自信がないので、今は親にならない方がいいだろう。「親自身も子供と一緒に成長する」とは良く言うものの、未来でもし自分がそのタイプの枠ではないと自覚する可能性があること自体考えるだけで怖過ぎる。それは任意で介護してる今とはレベルが違う話だし、義務であり人として当然のことだから…。一方で、もし妻(もしくは自分)が育児ノイローゼになってしまっても、その気持ちは世間一般の男より分かるという自負もある。結婚も子供もいつかは欲しいので、ジジイになる前に何処かで折り合いはつけねばね…。
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 映画に話を戻すと『グッドナイトマミー』然り『US』然り本作然り…、最初の不気味な感じが1番怖いよな。
プールで言うところの足から入る時の様に、体が水温(世界観)に慣れてなくて拒絶反応も出るんだけど、細胞レベルで必死に適応・順応させていってる感じこそが醍醐味と言うか。

自分は、どうやら何故この様になっていったのか、真相(設定)が語られていくと共にテンションが下がっていってしまうタチの様で…。
それは多分制作過程で、物語が他人(役者、制作スタッフ、金出すスポンサー、賭けてくれる配給会社etc... そして最後に観客)に理解出来る様に作られてるからだろう。自分の中では、真相は分からずに怖いままぶつ切りで終わるホラー映画が1番怖いのかも。
よくある「この映画で伝えたいことって?」「結局何が言いたいの?」を極限まで排除して、ずっと怖がらせて欲しい。ホラー映画なんてそもそもあり得ない話な訳で、見てる時点で純粋に怖がりたいだけなのに、整合性を持たすために取って付けた様な設定は食傷気味なんすわ…。(逆にそんな自分すら考えさせるジョーダン・ピール監督の作り込みも凄いが)

 だからそんな俺の1番好きなホラー映画は、最後の最後まで何も分からない『SAW1』が至高なのかも。自分の好きなホラー映画がなんたるかを分からせてくれた映画でもありました。
まる

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