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空母いぶきのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
1.5
【空母いぶきに憤怒の息吹】
本作は別に自衛隊の援助を受けていないし、国の支援で作られている国策映画ではないのですが、何でしょうこのプロパガンダ感。いや、プロパガンダ映画でも映画として面白い作品はたくさんある『戦艦ポチョムキン』とか『怒りのキューバ』とか。しかしながら、本作で主張される政治的メッセージの過激さに完全に胃もたれしてしまいました。

日本勢の前にたちはばかる謎の勢力からの攻撃。いぶきの乗組員たちは、とにかく敵であっても人命を第一に考える。ミサイルを撃ってくる確率が非常に高いのに、相手の生存確率のことばかり考えています。そして、敵機を撃墜したら直ぐさま、敵の生存確認を行う。ハリウッドの戦争映画ではなかなか見かけない程、相手の命を考える斬新な設定となっている。それ自体は、『空母いぶき』の魅力の一つであり、日本の時代劇を観ているかのような一撃必殺の面白さを引き出そうとしているのだなと分かる。

問題は、そこに付随する余計なサブストーリーだ。この作品では、多角的視点を描こうと、戦場にいる者(いぶきの乗組員)、戦場に居合わせた者(ジャーナリスト)、戦場を岡目八目駒として動かす内閣、そして一般人(コンビニ店員)の4視点が交互に描かれる仕組みとなっている。しかしながら、これが妙に歯切れが悪い。内閣サイドの物語は、『シン・ゴジラ』で魅せた非常事態における日本の鈍重さへの揶揄を意識したような演出となっており、何もできずただ指を咥えながら総理の前で物事が展開していく。ただ、これが本当に虚無で、毎回「敵機が撃ってきましたよ、反撃しましょう。」「うっうん、、、」みたいなやり取りを角度入れ替えて撮っただけのようなシーンが続くのです。別に有事によって総理大臣が成長するわけでも、極限状態をチームワーク駆使して乗り切るわけでもなく、ただ会議室でじっと辛酸を舐めているうちに物語は終わってしまうのです。事件は会議室で起きているわけじゃないが、あまりにも退屈だ。それに輪をかけて、コンビニオーナーの苦悩話が入るのだが、これが伏線のためのエピソードとはいえ、あまりにも中身がない。別にクリスマスの日に徹夜で仕事するオーナーから社会問題を斬り込むのは目的ではないでしょうと言いたい。

そして、一番重要な「いぶき」にたまたま乗り合わせたジャーナリストの話があるのだが、これが今まで散々リアルさを追求してきた作劇だったのに、それを壊してしまう作りとなっています。顕著なのは、会社と連絡する特殊な電話機。ジャーナリストは現場で起きている状況をリークするために電話機を使用し、それによって「いぶき」の職員に機材を没収されてしまう。通常であれば、そんな問題を起こしたジャーナリストには、監視員がつくと思うのですが、それがない。ただ外の爆撃をのほほんと聞いているだけなのだ。しかも、その電話機は返却される。確かに、乗組員の中には協力的な人もいるでしょう。しかし、だからと言ってビデオカメラ持って白昼堂々、現場で起こる問題を撮影し、他の乗組員が何も言わないのは変だ。セキュリティがガバガバ過ぎます。100歩譲って、「いぶき」の乗組員が一丸となって、ジャーナリストの報道を支持したとしよう。だとしたら、そういう描写を入れる必要があることでしょう。

そして、これは実際に映画館で確認していただきたいのですが、ブラック企業にありがちな精神論、胸熱展開でゴリ押して、あまりにも御都合主義理想的過ぎるクライマックスへと収斂していくところで、完全にNot For Me だと思いました。

もちろん、計器だけを観て、魚雷を倒していく戦艦映画的面白さもあるのですが、とにかく胸焼けで頭が痛くなりました。残念ながら、今年ワースト候補です。

キノフィルムズは『存在のない子供たち』や『ボーダー 二つの世界』などとアグレッシブな傑作を多数配給しており応援している会社なのですが、今回はすみません...
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