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映画 刀剣乱舞-継承-のシシオリシンシのレビュー・感想・評価

映画 刀剣乱舞-継承-(2019年製作の映画)
4.3
2019年公開映画のダークホース。ファン向けの実写映画にとどまらない「知られざる歴史暴き映画」として完成度の高い秀作。

本作の良点は舞台版の配役をそのまま続投したこと。演者は自身が演じるキャラクターを舞台で既にモノにした状態で演じているので、ダメな実写化が陥りがちなキャラと演者のズレや照れを全く感じさせずに場面を持たせられたので良かった。

また今作での刀剣男士は「ある程度修羅場を潜り抜けたプロフェッショナル集団」にしたことで、青さや未熟から来る言動や判断がなかったことが、私としてはストレスなく観られて美点になっていた。

演者で特筆すべきは三日月宗近役の鈴木拡樹。見た目は美青年だが精神性は老人のそれ。並の演者ならキャラの物真似になりがちな難しい役どころ。しかし鈴木拡樹は三日月宗近の魂を降ろして演じていた。そうとしか思えないほどの佇まいの美しさに惚れ惚れとしてしまった。織田信長役の山本耕史や審神者役の堀内正美ら重鎮たちを前にしても比毛をとらぬ存在感はまさに「天晴れ」の一言に尽きる。
個人的には土足を嫌うくだりや小さな草花を歴史介入によって踏みつけてしまったことへの悲しみが、終盤の三日月の言説に活かされていたところがとても好きだ。

歴史SFとしては外敵による歴史改変モノと思わせて、裏の歴史は「本当はこうだったのだ」と明かす手法で見せてきた。信長の死という歴史モノでは手垢の付きすぎた題材でありながら、その真相はこのテのジャンルとしてフレッシュなものになっていたのは見事。ここは脚本家・小林靖子の手腕が光る。

バイプレーヤーのMVPは八嶋智人が演じた秀吉。
主君の死の一報に泣きわめきながら、ふと自分に天下が巡ってきたことに気付く眼差しの変わり様はゾッとした。信長への忠義は間違いなくあれど、一度天下に魅入られたがゆえにかつての主君を討つ修羅と化した赤尻の猿を、八嶋智人は嬉々と狂気と一粒の哀切を持って演じきっていた。

総じて歴史SFとしてもゲームの実写化としても意外なほどしっかりとした作りの映画になっており満足のいく映画だった。
続編は本作とはまた毛色の違ったものらしいが、再び鈴木拡樹の演ずる三日月を拝めるのなら、それだけでも観る価値は十分にあるだろう。
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