ひれんじゃく

華氏 451のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

華氏 451(2018年製作の映画)
4.4
予想以上に評価が低くて驚いた。これはこれでいいと思うんだけどなあ。原作が読みたくなるし拙者ディストピアものあるあるの「体制側の主人公がふとしたことをきっかけに今まで自分が疑うことなく取り締まってたものに触れることで生じてくる変化」が大好き侍なので例に漏れずモンターグがこっそりと持ち帰ってきた本を開いたシーンで感動して泣いた。本は社会がくれない居場所やひとつの答えをくれる存在なんだよなあ………………………最近読書してないのもあって無性に本が恋しくなった。読もう。幸いにも本を持っていても燃やされない社会に生きられているので。

最後モンターグの死と引き換えに飛んで行った先で群れに合流するムクドリのシーンもめっちゃ感動した。全体を変えるのはいつだって個なんだね。そのたったひとつが中心となって変わっていく。主人公すら強大な社会に弾圧された数多くの人の1人となってしまっても、絶望の中にまだ希望はあるということをうまく描けていたようにわたしは思う。

ベイティの立場が釈然としないっていう意見も見かけたけどなんとなく彼は「体制に疑問を抱いてるけど行動に移すことができない」人なんじゃないかなあ……と個人的には観ていて感じた。ジョジョ・ラビットのキャプテンKみたいな。どこかおかしいぞ?とは感じ始めているけどいかんせん敵が強大すぎて二の足を踏んでるって感じ。下手したら裏切り者として即始末されてしまうし。紙にペンで思いを書き綴ってるのは静かな反抗なんじゃないのかな………と。分からないけど。あの世界におけるその2つって取締対象なのかちょっとわからんけどどうしても本を連想してしまう…………………だからモンターグが裏切った時も鳥を空に放つまで殺さなかったのかなと思ったり。まあ自分が手塩にかけて育てあげたからとかもあるだろうけど。なんとなく完全に盲信してるような感じがしないなあ…………それにしてはイカロスの話とかしてくるし……………

あと個人的に監視し合う社会っていうところにゾクッときた。大阪の営業してるパチンコ店の件といい。どこまでが自由でどこまでが侵害なのかという問題もあるけれど、過去との比較において「間違っている」方向に社会が進もうとしたときにそれに協力して個人の生活に他人が口出ししてくるようになったその時が「自由が侵害されている」のだとこの作品からは読み取れるように思われる。
そして、現在がどんな状況にあるのかを客観的に俯瞰するための欠かせない存在である過去を教えてくれるのは本。当時を生きた人々がこの世を去っても、その証言や記憶が本として留まっていればまだ記憶は忘却からは程遠い。本を規制するということは過去を捨て去ることであり、社会の暴走を許すことである。それが伝わったからわたしとしては観て良かったと思える作品だった。ただ確かにもっと長い尺でやっても良かったかも。
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