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教誨師のレクのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
4.0
作中でも語られた通り、EU加盟国は死刑廃止国が条件であり、欧州諸国はベラルーシを除き死刑は廃止されています。
本国における死刑囚に対する刑の執行は法務大臣の命令によらなければならないとされ、法律上は特別な理由のない限り、死刑判決が確定してから6か月以内に死刑が執行されなければならない。
作中冒頭でも記載された通り
死刑判決を受けた者(死刑囚)の執行に至るまでの身柄拘束は刑の執行ではないとして、通常刑務所ではなく拘置所に置かれる。

教誨とは、教えさとすことをいう。
受刑者に対し、徳性(道徳をわきまえた正しい品性。道徳心。道義心)の育成を目的として教育することをいう。
受刑者に対して教誨を行う者を教誨師という。

今作は死刑囚と対話する日本の教誨師を主人公としたドラマ映画であり、大杉漣さんが教誨師を演じています。
6人の死刑囚がバラバラに登場し、教誨師である佐伯(大杉漣)が対話をしつつ、各々の死刑囚に合わせて罪の意識に問いかける。
形式上はそうなのだが、単なる死刑囚の救済、そんな綺麗事で終わる話ではないのだ。
教誨師としての葛藤や苦悩。
死刑囚の生きる意味や訴えたいこと。
このふたつに接点を持たせること、人と人が交わる難しさを描く。

なんと言っても序盤から終盤にかけての6人の死刑囚たちの演技、人物描写が素晴らしい。
ひとりひとりに与えられた教誨の時間は短く、出演時間も断片的だ。
それでも一回目の登場から各死刑囚がどのような人物なのかを大まかに把握することが出来る。
勿論、大杉漣さんも主人公ながら聞き役として徹し、素晴らしい演技です。

会話劇にも関わらず、全てが全て説明的にならずに断片的な部分のみを見せることによってその人物の人となりを想像で保管するようになっています。
例えば、こんな酷いことをしたんだから死刑になっても当たり前じゃないか。なんて先入観や固定概念を抜きに、二人の対話から読み取る情報で自分自身が判断する仕様になっている事が素晴らしいんですよ。

また、拘置所の静謐に満ちた独特な雰囲気も肌で感じることが出来る。
無音に響き渡る足音、扉の開閉の音、椅子の軋む音、対話、雨音に至るまで、無駄なBGMを排除したからこそ味わえる臨場感。
死刑囚相手という張り詰めた空気感、会話からのみ与えられる情報の少なさに、各死刑囚たちがどのような経緯で殺人を犯し、死刑囚として収監されたのか?
そして死刑執行は6人の中の誰なのか?(予想はつきますが)
その推理サスペンスとしての側面、面白さもある。
そんな観客の推理と並行するように教誨師の佐伯が彼らと対話したことで相手がどのような人間なのかが明らかとなっていく。


言葉というものは他人に物事を伝えるコミュニケーションにおいて最適な手段で、とても大きな力を持っている。
しかし、この作品のように時にはそのコミュニケーション機能が全く果たせないこと、すれ違うことで蟠りができることだってあります。
教誨師と死刑囚の対話を通して表現された言葉の難しさを受けて、色々自分なりに考えてほしい。
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