WILDatHEART

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

3.0
再見してガラリと印象が変わり、演出の妙にいたく感心した映画。

この映画で描かれる主人公の少女ケイラの日常はイケてないなりに一見平穏が担保されているように見えるが、その日常の中に突然不穏な暴力性が忍び込むことが明示されている。

それは例えば銃乱射事件を想定して学校で行われる避難訓練や、信用していた先輩男子高校生からの車内という密室内での卑劣なセクハラ等であるが、平和な日常の中に突如として現れるこうした脅威がもたらす不安定感がそのまま思春期の少女の不安定な内面とリンクするかのようだ。

それゆえケイラがアップするYou Tube動画は、ともすれば日常の平穏さえも容易に脅かされかねない不安定な現実の中で喘ぐケイラが、不安に押し潰されそうになる危うい自分の存在をなんとか保持するために編み出した自己表現の手段のように見える。

動画の中で笑顔を作る彼女は溺れそうになりながらも生きようと必死でもがいているかのようだ。「私はここに存在しているよ!」と。


不安定な現実と、SNSのバーチャルな空間を思わせる非人間的で非現実的な電子音楽(所謂electronic dance music)が溢れるなか初めて描かれる、焚き火に照らし出された、父親とのハグという人間的な触れ合い。
頼りなく情けなく見えていた父親の笑顔が、焚き火の炎のようにあったかい!


印象的なエンディングでは、家族という戻れる場所をはっきりと悟ったケイラが18歳になった将来の自分へと向けて作成した動画から、かつての動画に見られた痛々しい悲愴感よりも

"I can't wait to be you !"
(あなたになれる日が待ち遠しい!)

に象徴される未来への瑞々しい期待感がむしろ感じられた。
家族の物語へと回帰するあたり、今風に見えて意外に真っ当で保守的な映画なのだな。


一回目の鑑賞では何だかよく分からなかったが、改めて映画は幾度か噛みしめないと味わえない旨味があることを痛感させられた。
反省しようっと。
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