現代の時代劇すべてに通じる問題ーーー美術の貧相さ、は本作でも解決されていない。チャンバラにおいて移動・固定を織り交ぜたやや長めのしっかりした視点が続くからといって殊更に褒め称える気にもならない。
仮に中島貞夫に撮らせた甲斐があるとすれば、多部未華子への圧倒的に素晴らしいディレクションこそ、それに該当する。酒場で見廻り組を追い出した後、高良健吾の背中に駆け寄る多部、このショットこそが最も傑出している部分だ。多部の着物だけ艶やかに見えるのも一つの演出である。
そう、かつての職人監督たちは皆女優への演出、女優を輝かせる術に長けていた。本作で重要なのはそのことを思い出させてくれる点であろう。