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チワワちゃんのaのネタバレレビュー・内容・結末

チワワちゃん(2018年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます


〇あらすじと登場人物
『バラバラ殺人事件の被害者の身元が判明した。それがあたしの知っているチワワちゃんのことだとは最初思わなかった。私たちはチワワちゃんと遊んだり、キスしたり、馬鹿話をしたりした。でも、大体あたしは、チワワちゃんの本名すら知らなかったのだ。』

物語のテーマとなる人物は吉田志織演じる“チワワ”ちゃん。物語はチワワちゃんがバラバラ殺人事件の被害者になってしまったことが、チワワちゃんの友人のうちの一人であるミキによって語られるシーンから始まる。ミキとチワワちゃんが出会ったのはとあるクラブ。ミキを含め、仲の良い若い男女数名で構成されたグループに彼女は突如として現れます。ミキが密かに想いを寄せていた、ヨシダくんの彼女として。
その日、ミキたちはクラブのマスターからVIP席にいる団体が不透明なお金、600万円を鞄の中にもっていることを教えられる。それだけあればどれだけ遊びまわれるのだろうという夢を膨らましている最中、チワワちゃんは衝動的に走り出します。600万円の入った鞄を奪い、全員で協力して追いかけてくる輩を巻き、見事600万円を手に入れるミキたち。悪いことをしているのにずっと笑顔で走っているチワワちゃん。そこでミキは思うのです。「ヨシダくんが好きになる子は、きっとああいう子なんだ」と。
そのお金を手に彼らは豪遊し、3日間で使い切ってしまう。それから、また同じ日常に戻る。しかしチワワちゃんだけは日常に戻れません。趣味でモデルの真似事をしていたミキのようにモデルを始めてみたり、そこで出会ったカメラマンと恋愛関係になってみたり、住むところを失って友人らの家を渡り歩いてみたり。そしてチワワちゃんとミキたちが出会って二年、チワワちゃんは冒頭のバラバラ殺人事件の被害者になってしまいました。
 それから「今知らないといけない気がして。」とミキは当時の友人らにチワワちゃんのことをどう思っていたのか訊きに回ります。しかし、友人らが語るチワワちゃんはどれも別人のようでした。チワワちゃんについて、みんなが違うことを語ります。何一つとして同じチワワちゃんはいないのです。チワワちゃんは一体どのような人物だったのか…。

〇感想
 みんなに愛されていて、自分が欲しいものを全部持っているチワワちゃんのことが羨ましいミキの気持ちが痛いほどに分かります。そして“ポップな毒”のようにじわじわと体内を侵食する世界観が心地良い映画でした。近頃の映画ではEDMのPVのように作られたシーンを持つ映画が多く、突然の世界観の切り替えに萎えてしまうこともあるのですが、この映画での使い方は世界観にマッチしていて非常に効果的なアクセントとなっています。
主人公のミキを演じる門脇麦さんは流石の演技。チワワ役の吉田志織さんの演技をきちんと見るのは初めてだったのですが、振り切った演技でチワワちゃんにしか見えませんでした。触れたら消えてしまいそう。個人的にはヨシダ役・成田凌さんとナガイ役・村上虹郎さんが好きなので、唯一の二人のシーンが堪らなかったです。虹郎くんマジわんこ。

〇チワワちゃんと世界
 チワワちゃんはみんなに愛されている女の子。可愛いお顔に男ウケ抜群のボディ、天真爛漫な性格。チワワちゃんの周りにはいつも人がいて、みんなの中心でした。
物語が進むにつれて、それぞれが語るエピソードからチワワちゃんの人物像が明らかになっていきます。そのなかで特にチワワちゃんとカメラマンのサカタ のシーンが非常に印象的でした。サカタは撮影を進めながらチワワちゃんに「君は他人よりちょっと可愛いというだけでこんなことをしている」「10年後20年後君は何をやっているかな?」などといった言葉を投げつけます。それはナイフのように鋭く、チワワちゃんの心を傷つけます。しかし、この言葉はこの映画を観ている「若者」に対して投げかけている言葉のようにも思えました。厳しいですが、非常に核心を突いた言葉の数々です。「みんなが君を若いって言うでしょ」「だって若いもん」「でもそれはみんないつか若くなくなるからだよ」。
友達と遊び惚ける毎日。そんな日々はたのしい。でも10年後、20年後、自分が何をしているのかは分からない。チワワちゃんはきっと寂しかったのだ。インスタグラムのフォロワーが何万人いても、自分を好きだと言ってくれる男がいても、可愛い可愛いと取り囲んでくれる友達がいても、本当に自分を愛してくれている人はいない。誰もチワワちゃんの全てを知ろうとはしてくれなかったのだ。その証拠に、誰一人チワワちゃんの職業や名前を知らない。あれだけ彼女をもてはやしていた彼らだって、チワワちゃんが姿を見せなくなったとしても「そういえば最近見ないね」で片づけてしまうのです。
最初にチワワちゃんを裏切ったのはヨシダくん。愛し合っていたはずの彼氏が他の女の子とキスをしているところを見てしまったチワワちゃんは、そこから崩壊していきます。ミキが周りの証言を通して知るチワワちゃんは、アダルトビデオに出演していたり、住むところが無いと友人らの家を渡り歩いていたり、はたまたお金を貸してと頼み込んでいたり、最後には同棲している彼の存在を匂わせていたりで、共通した証言はほとんどありません。チワワちゃんは人によって自分のどこを見せるかを変えていたことが分かります。

最後にミキはチワワちゃんの元彼であるヨシダくんの元へ行きます。それまでに得た証言では、ヨシダくんは最初から最後までチワワちゃんのことが好きだったこと、今はあまり当時の仲間と連絡を取っていないことが明らかになっています。チワワちゃんについて尋ねるミキ。「残念だったね」と一言しか残さないヨシダくん。そんな薄情な一言に対して、何故なのだという一言を投げかけられるミキはきっとチワワちゃんのことを大切に思っていたのでしょう。帰る、というミキをヨシダくんは押し倒し、レイプのようなことをします。ヨシダくんもチワワちゃんと同じく、悩める若者だったのでしょうか。チワワちゃんに対する色々な感情を、間違った方法ではありますがミキにぶつけてしまいます。

〇まとめ
 若者であっても、そうでなくても、人間は何かしらの悩みを抱えて生きていることでしょう。本当に自分を愛してくれている人はいるのか、みんな自分のことをどんな風に思っているのか、この映画を観ると、自分の中で渦巻くそんな感情が一気に露わになってしまいます。私たちは先の見えない真っ暗な日々の中で、今だけを灯してくれる、いつ消えるか分からない光を追い続けています。いつも傍で自分を見ていてくれる人に気付くことはとても難しいことです。ファインダー越しにいつもチワワちゃんを見ていた彼のように。
みんなの中にいる、それぞれのチワワちゃんをみんなで追悼するシーン、グッときました。本映画ではチワワちゃん視点からのエピソード、そしてチワワちゃんの本当の内面はハッキリと描かれていません。しかし、チワワちゃんはとても素直で優しく、魅力的な女の子なんだなあ、と感じました。オシャレな世界観にほんのちょっとの毒、知らないうちにチワワちゃんと映画の虜になってしまいます。
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