Miver2

氷上の王、ジョン・カリーのMiver2のレビュー・感想・評価

氷上の王、ジョン・カリー(2018年製作の映画)
5.0
愛を求め、芸術を追求するその姿と生き様から、美しさと痛々しさと遣る瀬無さを強く感じる作品だった。
何よりも氷上で踊り奏でる肉体とその鼓動の美しさには釘付けにならずにはいられなかったし、圧倒的な凄さを誇っていて、只々素晴らしかった。

光と闇の狭間で見るその氷上の美しさをしっかりと堪能出来たのがとても良かった。
ジョン・カリーの人物像を丁寧に、テンポ良く掘り下げながら、物語が綴られて行ってたから、とても観応えあって面白かったなと。
切実なその姿から滲む美と苦悩、光と闇の対比、心の中の果てしない深さだとか、しっかりと感じる事が出来たように思う。

手紙にしてその気持ちを綴って行く所は、あまりにも切実で真っ直ぐな想いがそこにはあって、遣る瀬無くなってしまったりもした。
でもその想いを知る事が出来てとても良かった。

そして栄光へと昇りつめて行くのと同時に、スポーツが芸術へと昇華されて行くのをしっかりと体感しながら観る事が出来たように思う。
氷上で繰り広げて行く肉体の舞踊と舞踊のルーツ、クラシックの音楽それぞれが共鳴し合いながら魅せるその瞬間のカッコ良さがとにかく圧巻で最高だった♪

途中、プロ転向後に立ち上げた自らのカンパニーで魅せるそのステージの芸術ぶりがとにかく素晴らしかったな。
個人的にはBUCK-TICKやPerfumeが芸術的に作り込むステージを体感する面白さがここにもあるんだな思ったし、スケートを通して表現する芸術の最先端ぶりが凄かった。

映し出されて行く数々のステージとその演目を観ていると、ジョン・カリーが繰り広げた数々のステージを収録した作品を手に入れられたらどんなに良いかと思ったし、その数々の演目を映画館で改めて体感出来たらどんなに嬉しいかと思ったりもしたもんな。

この映画はセクシャリティを通して浮き彫りになる社会の現在があったりもして、その背景や土台を丁寧に映し出している作品だったなって思う。
そして途中で綴られて行く日本公演のあの仕掛けは演る側の気持ちが萎えるのは非常に納得だったなあ。
あれはないよね。

終わり側かな、社会貢献の問いに対しての返答がとても印象的だった。
そしてこの映画を配給しているアップリンクが3月に公開した「ヨーゼフ・ボイスは挑発する」のある部分と重ね合わせながら観ていた。

氷上で行なって魅せていた社会彫刻はその表現の絶対的な美しさ、その凄さが人々の心やある種の社会を豊かにしたり、彩ったりするのだから、絶大な物があるよなと思わずにはいられなかった。
例えそれが細やかでも少数でも、確実に残る物だからね。

そして観終わった所でその先にある物があったなら、もっと観ていたかった。
あそこで終わりなのは分かってるけど、その先に何かが確実にあるのは分かるし、それはきっと何処かで誰かが引き継いていると思うから、それをこの目で確認出来たら良いなって思った。

氷上の芸術とその生き様の凄さ、先駆者としての輝きとその苦悩、セクシャリティを通して浮かび上がるその現実だとか、ありとあらゆる物を丁寧にしっかりと捉えながら綴られている素晴らしい作品でした。
また観れたら観に行こうと思います。
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