羊が1匹

氷上の王、ジョン・カリーの羊が1匹のネタバレレビュー・内容・結末

氷上の王、ジョン・カリー(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

現役アマチュアスケーターとしては1970年代に活躍したジョン・カリーの反省を描いたドキュメンタリー映画。
町田樹がジャパンプレミアで登壇していて興味を持ったので観に行ったんだけど、想像してたよりずっと面白かった。とにかくジョン・カリーが美しすぎる。お顔も美しいんだけど(カリーの若い頃はアダム・リッポンの若い頃にも似てた)、スケーティングも美しい、スケーティング中の身体のポジションも美しい。何もかも美しい。70年代のスケーターだからもっと古い感じの演技なのかなと思ってたけど、全く古くなくてびっくりした。町田樹が「カリーの『牧神の午後』の振付は今でも引用されることがある」と言っていたのも納得。ドキュメンタリーだし、もっと淡々とした映画かなと思ってたけど(実際テンションは淡々としてたんだけど)、あまりにも演技が美しすぎて「これ以上の余計な何かは要らない…」ってなった。

カリーの美しさは彼の完璧主義的な性格にもよるところが大きいんだろうけど、その性格ゆえにうつ状態になってしまったんだよね…。彼のカンパニーは大人気だったのに経営難だったというのも、今も昔もまだまだフィギュアスケートは”文化”ではなかったんだというのを突きつけられてつらい話だった。

最後に、台詞の細かいところは忘れてしまったんだけど、カリーのインタビューで「フィギュアスケートは見る人に『生きてて良かった』と思わせるもの」と答えていたのが印象的だった。フィギュアスケートだけじゃなく映画とかでもそうだと思うんだけど、芸術や物語などの想像の世界って現実的なものではないけど、それがあるからこそ生きていけるものなんだよね。無くても生きていけるけど、あるからこそ生きていけるもの。フィギュアスケートに出会えてよかった。

以下箇条書き。
■映画のBGMではフィギュアスケートでよく使われる音楽がたくさん登場してたのも気になった。先述の牧神~もそうだけど、海賊、カルメン、ドン・キホーテ、シェヘラザード、タンゴ・タンゴなど。カリー自身が使用していたんだろうけど、これはカリー以前からスケートでよく使われていたのかな?それとも、もしかしてカリーが使用してたから大勢のスケーターが使うようになった?どっちなんだろう。
■日本で公演をした際に「興奮メーター」なるものを日本側の企画が作ったと劇中で紹介されてたけど、今も昔も日本の企画は海外のスターに対して失礼なことばっかりしてたんだなと思った。でもこの映画でそういうのはダメってはっきり描いてくれて良かった。どこかで誰かがこの映画を見たら、今後そういう失礼な企画が生まれるのを一つでも減らせるかもしれないから。
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