鳴海慧

返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻すの鳴海慧のレビュー・感想・評価

3.7
沖縄返還という大変な仕事を担う千葉一夫
一時代を最後まで駆け抜けて行った方なのだと感じました
各国の言い分もあり、内地と外地(沖縄)の温度差があり過ぎる
そんな中、板挟みになりながらも奔走する姿は日本の闘う男の姿をみました

勿論、未だに解決出来ず、沖縄へのしわ寄せが続いているのも現実で、もっと沢山の人々に観て、そして討論して欲しい映画です
実際、全て基地が撤退し、完全返還には大変難しい問題があり、基地関係で働いている方も多くいます
雇用の問題も解決しなければ何の解決にもなりません

ここからは新さん演じる千葉一夫さんの感想
最初は怒れる男だと思って観ていましたが、観れば観る程、どんどん千葉さんが好きになりました
大変魅力的な男性で、家ではコッソリ踊ったり歌ったり、時にはイラついて娘に当たったり、お酒も飲み過ぎちゃって玄関で寝ちゃうし

テレビの時に無かったシーンは
酔って帰宅した朝に、長女が千葉さんを起こしに来たら、キレて怒るシーンが映画にはありました
あのような人間味溢れる家族のシーンを入れた事で、余計に政治的要因だけで無く、家族との深い繋がりも描かれていて
あの瞬間だけは張り詰めた交渉人としての姿から普通の父親像が見えました
再編集され映画化されて本当に良かった
良い作品を埋もれさせてしまうのは、見て見ぬ振りしてる輩と同じになってしまう
私達が出来る事は矮小かもしれませんが、知らない人にもっと、もっと広めて行く事は出来ます
もっと沢山の方々に観て欲しい作品です
ディスク化されて居ないのが残念でなりません

沖縄返還に身を粉にして働く千葉さんの姿には、胸を打たれました
老いてもまだ沖縄の為に行動に移そうとする千葉さん
最後まで諦めない強い精神が本当に魅力的な人物でした
千葉一夫さんの役を新さんが演じて下さって、今後も忘れられない役になりました

そして妻 恵子役の戸田菜穂さん、流石、千葉の妻だと感じます
余り多くは語らずとも寄り添い、千葉が辛く同仕様もない時に奮起させます
ただ優しく諭すだけでは無く、恵子の方法は凄いです
アレは眼が醒めます

外交官の千葉一夫さん、熟この映画に出会えて良かったと思った「核抜き、本土並み」を最後まで貫き、密約をも拒否した為、返還が実現前に左遷
何が彼を沖縄返還へ突き動かしていたのだろう、物凄い強い気持ちが無ければあそこまで出来ない

戦争では通信士で戦闘の様子を傍受、千葉の両親はポツダム宣言の日に自殺(父は外交官)、広島原爆投下も目撃
これが全て20歳の時で、21歳両親の死を契機に外交官を目指し
沖縄返還に晩年まで思いを馳せていた

外交官であった両親の死や、原爆投下の目撃、戦闘を傍受していても自らは動けないジレンマ、数々の事が20歳に起った
計り知れない衝撃だっただろうし、やり場の無い憤りも感じた事だと思う

戦争の傷跡は方々に沢山あったが、自分が遣らなければならない事が『沖縄を取り戻す』事だったのだろう
占領された規模が多く、あのままでは沖縄が日本では無くなってしまうとも思ったのかもしれない

信念を貫き、左遷はされてしまったけれど、千葉さんがやった事は無駄では無い
今の現状としては千葉さんが奔走した時より悪い状況になってしまっている
それだからこそ、今、この映画が必要なんだと思う 『諦めたらダメだ』政治を動かす事の出来ない人々でも、生きている上で、この千葉さんの言葉は忘れないでいて欲しい

そして政治を動かせる人々には千葉さんの思いを無駄にしないで欲しい
こんな素晴らしい生き様を貫き通した千葉一夫さんに、映画の中でも出会えて本当に幸せでした

新さん演じる千葉さんについては、あの分厚い眼鏡にしたのも、より昭和の男感が出ていて、目付きの鋭いのも違和感なく役作りされていて、正にそこに外交官・千葉がいたと思った
時折、垣間見える家庭での姿が『クスッ』と笑える瞬間があったりで、映画でしか見れなかった姿でしたね

以前の舞台挨拶時に石橋蓮司さんが戦争の事をお話されて、その忘れてはいけない思いは、佐野史郎さん、新さんから、僕に続いていますと、中島歩さんが話されてたのが印象に残りました

思いは引き継がれる…

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