きょん

存在のない子供たちのきょんのネタバレレビュー・内容・結末

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ずっと気になってはいたけれど、2時間以上と時間が長いのでいつも後回しにしていた作品。

日本から遠く離れた中東=内戦・紛争・貧しい・危ない国と思ってしまうし、私たちが日頃ニュース等で見る中東は国々の情勢等しか目にできなくて、そこに暮している人々の生活までは詳しく知れないし、知らない。
この映画時代も全てアラビア語で進んでいくし、最初は過激で重たい映画なのかな?と思ったけれど、見終えた今は感じ方が違う。

この映画を作った監督の見る人たちへの心配りが映画の中でいくつもあった。

まず第一に過激なシーンは無い。

そしてスパイダーマンならぬ、ゴキブリマンを名乗るキャラクターを登場させたり、子供をあやすシーンにはミニオンのおもちゃがあったり、、どこか中東=貧しい=時代遅れてると思ってしまうこともあるけど、そんなことはなくて、遠く離れた国でも今私たちが生きている今という時間は同じ時が流れている。


映画を見終えた後にこの実演している方々は果たして役者なのか、それとも、現地でスカウティングしたのか?と気になるほど、演技が素晴らしい。特に主役の当時たった12歳だったゼイン。彼の演技には感動したし、泣いた。

実際ゼインもシリア難民で家族と共にレバノンへ亡命し、教育を受けることなく10歳から働き生計を立てていた経験の持ち主。ゼインが出会うシングルマザーのラヒルを演じた方も難民キャンプで生まれ育ち、ホームレスも経験した方。ほとんどの出演者が自分の演じたキャラクターと共通する背景の持ち主だからこそ、リアルな作品になっているんだなと実感。

ゼインが生放送のテレビ局に少年院から電話しているシーンで、「生放送だよ、言いたいことは?」という質問に対して

「大人たちに聞いてほしい。世話がでにないなら産むな。僕の思い出はけなされたことや、ホースやベルトで叩かれたことだけ。一番優しい言葉は"出ていけクソガキ"。みんなに好かれて尊敬されるような立派な人になりたかった。」

法廷での審判からの「両親への要望は?」に対して一言「子供を作るな」

たった12歳でこんなことを考えさせられちゃう生活環境に今もなお沢山の子供達が直面していると考えただけで、胸が締め付けられし、ごめんねとしか言えないのが辛い。

何度も映画の中でアップでゼインの顔が映るけれど、心に焼き付く彼のどこか何かを諦めてしまったような暗く澄んだ目。

そして最後に彼が見せる笑顔。

現在彼はノルウェーに移住できたみたいだけれど、彼に限らず同じような境遇に生まれ育ち、今もなお世界のどこかで懸命に生きている子供たち、人々の幸せ、笑顔で過ごせる日々が来ることを改めて願う。
きょん

きょん