夢はポケモンマスター

存在のない子供たちの夢はポケモンマスターのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.0
始まりは幼い子供達が走ってるところからスタートする。
見た目は7.8歳くらいの子から小学高学年くらいまでに見える。舗装されていない道路をボロボロの靴やサンダルで走り回り、廃屋でタバコをふかすその様は見た目とのギャップに驚愕する。そして何より、その中に混じっていた主人公は12歳ほど。
見た目はまだ1桁に見える。そこに集まっていた子供達がそのぐらいの年齢だと考えると、いかにその地域が毎日の生活に苦しんでいるのか。
12歳ぐらい、と言うのも出生証明書が無いのでいつ産まれたか分からない。
主人公であるゼインが暮らしているのはそんな場所で、学校にも行けず、小さな体で大きな荷物を運び、母の手伝いをしながら兄弟の面倒も見るお兄ちゃん。
すぐ下の妹のサハルはゼインと見た目が変わらないくらいだが、初潮を迎える。
歳的に言えば、相応なのかもしれないが如何せん見た目とそぐわないこのギャップが序盤から猛スピードで頭を殴ってくる。

母の手伝い、と言うのも処方箋をたらい回しに薬局に持っていき、貰った薬を砕いて水で溶かし、服に染み込ませ、少年院(?)にいる従兄弟たちに売りさばかせるといった内容で、これを兄弟達が何も疑問を持たずひたすらに手伝う。

サハルは初潮が来た事が親にばれ、ゼインが仕事を手伝う店主へと嫁がされることになる。
ここのシーンでサハルは勿論、ゼインも反抗するのだが本来の半分くらいの体格しかないので勝てるはずもなくサハルは連れて行かれてしまう。
両親のセリフも常に酷く、日常的に暴力が当たり前で、学校に行きたいと言えば父からは反対され、母からは支給物資目当てで行かせろという。そして当たり前のように仕事もさせる。

序盤からすごい勢いだが、どの場面でも救いは無い。サハルが連れていかれ家出を決めたゼインは不法就労している女性と出会う。
彼女の息子、ヨナスの面倒を見ることで居候させて貰っていたゼインだが、彼女は逮捕され家に帰ってこなくなってしまう。
こうなるとさながら「火垂るの墓」をみせられている様だった。
見た目年齢7~8歳の子が1~2歳の子を抱えて歩き回るシーンはずっと見ていて心が痛い。
お金もなく、食べ物もなく、水すらない。
そんな状況で氷に砂糖をつけてヨナスに食べさせたり、粉ミルクを粉のまま食べさせたりして凌ぐがそれも長くは続かない。

国外に逃げようと必死にお金を貯めるが、お金のため方は母に手伝わされたあの薬を砕くやり方。ヨナスの足を縄で縛って遠くへ行かせないようにするなど、母の育て方を真似るゼイン。この環境しか知らないゼインはどれだけの希望を持って国外に逃げたかったのだろうか。
そしてその希望も、出生証明書が無い事で打ち砕かれる。更にはサハルが既に亡くなっていることも知り、絶望のどん底に落ちた終盤。ゼインはサハルの夫を刺した。

収監されたゼインは生放送番組へ電話で「両親を訴えたい」と言う。
実際に弁護士がつき、裁判が開かれる中ゼインの主張は最もだと感じた。
両親は涙ながらに自分たちも被害者だと訴える。確かにその通りかもしれない。
娯楽もないあの環境下で唯一出来ることといえば性行為だ。ただし、避妊具は無い。
避妊具を買うことができない、中絶する事も出来ないから産むしかないんだろう。
親から子は家の支柱になるから沢山産みなさいと言われていたゼインの父はそれを信じたが、そんなことは無く終わりのない悪循環のループに子供を巻き込んだだけだ。
この負債を子供達が背負わなくてはいけない現状に少なくともゼインは絶望してたはずだ。
彼はきっと本来受けられるはずの教育を受けていたなら多才な子だったかもしれない。そう思えるほど頭が良く、考えられる子だった。
サハルが亡くなったあと、また母が身ごもり「女がいい。女の子ならサハルと名づける」のセリフに酷く憤りを感じた。
両親は何も学んでいないのだ。そしてゼインも母に「心は無いのか」と憤慨していた。

このラスト30分は怒涛だった。
この映画に出てくる人全てに希望がない。
最後はゼインの身分証の写真を撮って終わるのだが、初めてそこでゼインの笑顔を見れるがその笑顔も口角を上げただけの笑顔の表情でしかない。

生涯の中で見るべき作品の一つ。