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存在のない子供たちのpsychocandyのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.2
多くの人が書かれているように、まるでドキュメンタリー番組を観ているようで、あまりに生々しい現実を目の当たりにして、とにかく最初から最後までずっと心が痛かった。

この作品から感じる圧倒的なリアリティ。
それもそのはずで、ほとんどのキャストが素人同然で、なおかつ演じる役柄と同様の境遇にある人たちなのだそう。実際に、主人公のゼイン君は国内情勢の悪化によりレバノンへ逃れたシリア難民の一人なのだとか。

本作を撮っているのは、劇中でもゼイン君の弁護士役として出演しているナディーン・ラバキーというレバノン出身の女性監督。ゼイン君の視点を通して、移民社会の不条理に翻弄される2人の母親の葛藤と苦悩を、同じ女性の監督として圧倒的な説得力をもって訴えかけてきます。

本作はレバノンやシリアの話ではありますが、現在のパレスチナのガザ地区での紛争のことを考えると、この映画で描かれているような「存在のない子供たち」は、今この瞬間にも当たり前のように増え続けていることが想像され、ますます辛い気持ちになってきます。

一方で、唯一希望のようなものを感じたのは、こんな過酷な社会環境の中においても、それでも逞しく生きようとする、ゼイン君をはじめとした中東の子供たちの「生きる力」、「生命力」みたいなもの。もちろん、治安の悪い社会において、こうした「ハングリーさ(弱肉強食)」が負のスパイラルを生むことは考えられますが、期せずしてヨナスちゃんの世話をすることになったゼイン君のひたむきな姿を見るにつけ、前向きな生命力のようなものを感じたのも事実。

観終わった直後、いろんな感情が交錯して、なかなか自分の中でもすぐには消化しきれない作品ではありましたが、深く心に刻まれる映画体験になりました。傑作です。
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