JIZE

アメリカン・アニマルズのJIZEのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
3.9
家庭環境にも恵まれ何不自由ない生活を送る大学生4人が"何者かにならなければ"という欲望と衝動に突き動かされ図書館に貯蔵された時価12億相当の巨大なヴィンテージ本を盗み出す大胆不敵な完全犯罪を描いた青春スリラー映画‼︎劇映画とドキュメンタリの手法が画期的に融合していて現実(張本人)とフィクション(役者)が呼応してオーバーラップするような映画ならではの面白味がある。想像以上に苦味たっぷりで心拍数の上がる稀少な犯罪映画でした。題材の基は2004年ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で実際に起きた"アメリカ犯罪史上最も愚かな強盗事件"を顔も青ざめるような失態の連続で悪夢的に描き込まれる。また映画の肝となる芸術品の強奪作戦でも劇中の映画引用ではおもに『華麗なる賭け(1968年)』や『レザボア・ドッグス(1991年)』,『オーシャンズ11(2001年)』など名作群の犯罪映画を参考にあらゆる下準備を綿密にする。例えばコードネームで仲間を呼び合ったりサングラスに深めの帽子をかぶって変装するなどチーム強奪のケイパー要素が全面的に映えているのは最大の美点だった。若者たちの何かが起きれば最高の何かが生まれ特別な人生になるコトを追い求める"一線の越えたさ"と"すべてを捨てて冒険する"部分にモラトリアム時期のぶつけようがない葛藤や命運が分かってて実行する怖いもの見たさみたいな気分を味あわせられる。若者4人と一緒に犯罪を行っているような緊迫感とエモーショナルが良くも悪くも少なからずの悲哀を織り込み映し出されていた。全編はやや『ソーシャル・ネットワーク(2010年)』の青春期の停滞感を体現した作風と似ている。鑑賞前はコメディ要素過多の青春犯罪劇だと軽く高を括ってましたがそんな生温い代物ではなく常に危機感と切迫感が多角的に鼓動を立ててグルーヴする癖になりそうな映画だ。

→総評(底辺でくすぶる若者たちのあくなき衝動)。
総じて同じように何かが起きるのを待ちわびてたり似たり寄ったり底辺でくすぶっていた経験が誰かしらあるからこそ嫌いになれない映画。共感まではいかないが一辺倒に捨て切れない味わいがある。非常に地に足の着いたようなアナログタイプの映画で現代的なアプローチはほぼ排しているがすぐ隣に人生を破滅させ兼ねない危機感が地続きにある感じや取り返しのつかない失態を平気で次から次へと重ねてしまう感じなど犯罪映画の既存アプローチを揶揄するような若者たちの意識の低いダメさが逆に全否定できないだけに癖になるような味わいを醸し出して研ぎ澄まされる映画である。例えば序盤で確定した事実が終盤になって途端に証言の食い違う様が発覚する感じやいざ窃盗作戦の本番中にあり得ないミスを連発して常軌を脱してしまう団結感の無さなどどう考えてもまとまりがなくヤバい連中が無謀な大勝負に身を投じる様がなんとも滑稽で画集を勢いあまってああしちゃう一幕は特に目を覆いたくなる。目の前の不安定な欲望に目がくらみ後先考えずに最後まで突っ走っちゃう焦燥感はこの映画にある意味でスパイスの役割を果たしカタルシスを醸し出していたように思えた。作品の苦言はそもそもの行動原理の欠如や破天荒なリーダーのウォーレンがあそこまで情緒不安定でヒステリック,気を荒だてなければ事態は丸く収まってた感が拭い切れず他3人の巻き添いをくらった印象がある。あと些細なメールや電話番号の痕跡を辿る失態をおかす辺りも非常に若者たちの意識の低さと詰めの甘さを感じてしまった。そもそも違う高度な次元に進化した人間が進化論を提唱したダーウィンの本を盗み出すというアイロニーな一面も見所ではないか。より若者たちが本能剥き出しで動物的だったからこそ四者四様の出で立ちは"人間の末裔"のようでその皮肉が鮮明に際立つ。というよう環境にも恵まれた普通の大学生たちの起こした大胆な強奪事件の驚愕の全貌を劇映画と本人映像を交えた新鋭の実話映画として楽しんでもらいたい。
※もう何回か解釈と見方を深めて観れば上昇修正されて評価が変わる可能性のある映画でした。
※BEST SONGS→alt-J「in Cold Blood(Baauer Remix)」
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