2時間後のていら

ブルース・ディッキンソン(アイアン・メイデン) サラエボの叫びの2時間後のていらのレビュー・感想・評価

5.0
強烈な映画だった。
もう3週間以上前に見たのに、今思い出しながらこうして書いていても涙があふれてくる。
実はこの映画、ブルース・ディッキンソンソロのトリビュートなんていう超ニッチ分野のバンドメンバーと共に見に行ったのだけど、終わった後全員言葉を失い、
「ライブ1週間にこんなものを見て、どんな顔でこれらの曲を弾けばいいのか分からない…」
と動揺してしまった。

空港について、国連のヘリが迎えに来てなかったら、普通は帰る。
待ちぼうけ食らってる間、どれだけ危険な地域かの説明も受けて。
でも、そこで帰らないどころか
「OK、ここからは自力でサラエボまで行く」と決めて、その方法を探し、いつ狙撃されるか分からないトラックの荷台に隠れるように乗り込んだ。
それがブルース・ディッキンソン。
彼は世界的ヘヴィメタルバンドのボーカルでありながら、ジェット旅客機のパイロットであり、航空機格納会社の社長であり、ビールブランドのプロデューサーで、フェンシングの名手で、小説家でもあり、ラジオのDJをしていた事もあり、戦車だって乗れる。
そして、舌ガンという病を乗り越えた癌サバイバーでもある。
一人で何人分もの人生を歩むブルースにはいつだって驚かされるが、それは彼が「行動する人」だからなのだと、この映画を見て改めて思い知った。
それにしたって、常人とは行動のレベルの桁が違うけれど…。

「行動しろ、まず人を感動させてみろ、そうすれば状況は変わる」
「リスクのない人生なんて死んでいるのと同じだ」
彼のその言葉の重みと説得力にただ震える。
戦争の前で音楽は無力かなのか?という命題は、
とても答えは一朝一夕では出せないし、平和な国でぬくぬくと暮らしている私たちが語ったところで陳腐になってしまうけど…
でも確かなのは、その時の瞬間は彼らは紛争のことを忘れ、「普通」の人たちでいられたということ。
ブルースとそのバンドが危険を顧みずやり遂げた事が、どれほど彼らにとって大きな意味があったのか。
その当時のライブを見たサラエボの人たちの感想が物語っている。

東京ではたった1週間限定の上映だったが、あまりにももったない。
メタルやメイデンファンのみならず、もっと多くの人に知ってほしいと心から思った。
悲劇のサラエボで人々の心に光を灯したロックスターがいた事実を。