Juno

ハナレイ・ベイのJunoのネタバレレビュー・内容・結末

ハナレイ・ベイ(2018年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

ようやく見る気になったので見たのですが、自分でも引くくらい泣いた。刺さったポイントは色々あるが、
・出てくる現地の人たちがみんな抱えてる多かれ少なかれの喪失と折り合い
・残酷なくらい無邪気でやさしい外野の象徴たる若い男の子たち
・愛を愛として出力できない上に嫌悪感が綯い交ぜになる究極に似た母と子
このキャラクター造形が絶妙。演者の酌み取りと表現が絶妙。血の通い方が生々しい。フィクションなのに実存性が高い。

寄り添ってくれる女性も、敵意をむき出しにする元軍人も、もう若くなくなったホテルの経営者も多かれ少なかれ何か(だれか)を失くしており、同調を示したり反発したりするその感情の動きが胸を打つ。感動させるというより、剥き出しの感情をぶつけてくるから受け取る側のこちらも凪のままでいられない。そうした決定的な傷と並行して日常が営まれ、ふとした折に顔を覗かせる。まるで発作みたいに。だがそれを悔やんだり苦しんだりの描写はなく、それはそれとして処理する点が印象的。

前触れなく挟まれる生前の息子の、かわいくない、にくたらしい、生意気で理不尽な物言い。怒りの方が強く記憶に残っているため、タカシへの怒りや憎しみがたくさん思い出される。ただ同時に親として、人として、家族として紛れもなく愛していたから、相反する感情を同居させながらとにかくその影を追わざるを得ない。くだらない別れ方をして、最後の言葉も思いがけなくて、それでも自分の知らなかった姿を追体験して、切り離したひとりの他者として姿を追えたのでは。ただそのぶん、会いたいという思いが強くなっているのがわかって、見ている側は本当につらかった。
愛が混ざった瞬間の記憶を呼び起こせてよかった。寝顔を覚えているのは愛しさのゆえであり、その難しく複雑な母と子の距離感が大変素晴らしかった。これは名作。
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