このレビューはネタバレを含みます
ここまで泣くと思っていなかった。
本当に、心からいいと思える映画だった。
柳楽優弥がどれほど凄い役者なのか、やっと知ることができた。他の役からは考えられないほど繊細で、シンイチしか見えない演技ができるのは本当にすごいと心底感じた。
この映画を見るのが、今のタイミングで良かったと思う。
正常な気分の時に観たら、ここまで心に響かなかったし救われなかったはずだから。
今弱ってて、言葉にするのは難しいけど、とにかく苦しい時にこの映画を観れたことが何より救われたんだと思う。
シンイチは、ただの引っ込み思案とか控えめな人っていうわけじゃない。自分の生きてる意味が分からなくて、自分によくしてくれる人にも心が開けなくて、でもそんな自分がすごく嫌で苛立って。
現実逃避の夢の中みたいな感覚みたい。
芦沢光を消して、ヨシダシンイチになろうとした。
なろうと思えばなれたのに。
でも自分と向き合おうとしたから、結果的に本当の自分、芦沢光として生きていくことにしたんだと思う。
自分自身に対する葛藤がたまに顔を出して。
ストレートな感情としてというよりは、心の中のどこかに葛藤が潜んでいるからしてしまった行動と言うべきなのか。
体が勝手に動いてて、でも冷静になってみたら自分何やってんだ、って。
最初はただの偶然だった。亡くなった息子さんと、偽名がたまたま同じ名前だったのは。
哲郎の弱みに漬け込もうとした訳じゃない。
だけど、自分をよくしてくれている哲さんの気持ちに応えたくて、ちょっとでも息子さんに近づきたいと思ったから髪を染めたんだと思う。
黒染めをしたのは、自分の中で、芦沢光として生きていくかヨシダシンイチとして生きていくかを決めた、その決意の表れだと思う。
本当のことを知っているのは2人だけでいい、誰にも話すなって哲さんは言ってくれた。でもそれを切り捨ててまでみんなの前で本当の自分をカミングアウトした。
多分、このまま自分に嘘をついて生きていくことが嫌だったんだと思う。ヨシダシンイチとして生きていくのなら、本当の自分よりもすごく楽で安定した生活が送れていたと思う。夢の中でふわふわとした感覚のまま、ずっと過ごしていくことが出来た。でも、それ以上に嘘をついて手に入れた生活に対する苦しさの方が勝ったから、自分をよくしてくれた人も生活も捨てて真っ正面に自分と向き合っていくことを選んだんだと思う。
今の自分は光と同じだ。
生きている意味が分からない。別に今いなくなっても誰も悲しまない。何のために生きているか分からない。これから先やりたいこともない。どうしようもなく自分が嫌になった。
毎日すごく苦しい。
だけど、光は自分と向き合うことを決めた。
哲さんは言ってくれた。
どんなことがあったって、死んで解決することなんて一つもないって。
光は、
逃げ出さずに、ちゃんと向き合っていくことをあの夜明けの海で決意したと思う。
だから私も、逃げずに少しずつでもいいから自分と向き合っていこうと思う。