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記者たち~衝撃と畏怖の真実~のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.4
 同時代のアメリカのジャーナリズムを事実に基づいて描いて、『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)に並ぶ秀作。

 2001年9・11以後、ブッシュ大統領は「悪の枢軸」演説でイラン、イラク、北朝鮮をアフガニスタンに次ぐ武力行使の標的候補として名指しで非難した(西洋対イスラムという図式にしないために北朝鮮を加えたという説もあるそうだ)。テロを支援し、核開発疑惑、つまり大量破壊兵器を保有している疑いがある、と。

 その後、ニューヨーク・タイムズが、イラクが核製造部品の密輸を加速していると一面でスクープ。後にこれはチェイニー副大統領首席補佐官の意図的なリークによるものだと判明し、読者に謝罪することになるのだが、「政府が有力紙にリーク、それをテレビが取り上げ、それを受けて政府高官らが裏付ける。という一連の世論形成ループが成立する」(プレス資料への小西克哉氏の寄稿)ことになった。こうして大手メディアが軒並み、このブッシュ政権の〝嘘〟に追随するなか、唯一、〝真実〟を見抜いていた新聞社があった−−−−。

 ナイト・リッダー。31紙の地方紙を傘下に持つ中堅新聞社。この作品はナイト・リッダーのワシントン支局の4人のジャーナリストたちの、四面楚歌のなかでの孤高の奮闘を追う。

 国家安全保障担当の特派員ジョナサン・ランデー(『スリー・ビルボード』の印象も鮮やかなウディ・ハレルソン)と外交担当記者のウォーレン・ストロベル(『X-メン』シリーズや『魔法にかけられて』のコミカルな王子役をしのいで、これははまり役のジェームズ・マースデン)がタッグを組んで文字通り足でウラをとり、ジョン・ウォルコット支局長(監督で妻のミシェル・ライナーとともに製作にもあたったロブ・ライナー自身が演じている)が強力にバックアップ、さらにベトナム戦争の従軍記者を経てコリン・パウエル国務長官のスペシャルコンサルタントを務めていたジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・〝BOSS〟・ジョーンズ)が加わる。

 ふたりの記者のそれぞれの私生活−−−−ランデーの妻(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は旧ユーゴスラビア出身でイラク戦争へとなだれ込んでいく動きを敏感に批判し、離婚歴のあるストロベルには隣人(ジェシカ・ビール)と恋仲になる−−−−のエピソードもさることながら、彼らの仕事中のユーモラスなやり取りがバディものとしても実に秀逸。いいなぁ、こういうプロフェッショナルな男たちの絆は。

 何故、ナイト・リッダーのみが並みいる競合他社のように政府の「戦争広報」に騙されなかったのか? それはワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどは政治家や政府高官とのコネクションがあったのに対し−−−−『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』ではメリル・ストリープ演じるワシントン・ポストの社主とトム・ハンクス扮するブラッドリー編集長がケネディ、ジョンソン両大統領やマクナマラ国務長官との〝社交〟や〝友情〟を振り返るシーンがあった−−−−ナイト・リッダーの情報源は政府の言わば中堅クラスの職員や官僚が主だったからだ。

 ウォルコット支局長が社内で記者たちに檄を飛ばすシーンがある。曰く「他社が政府の広報に成り下がるのなら、やらせておけばいい。われわれの読者は、ワシントンやニューヨークで他人の子どもたちを兵士として送り出す側ではなく、我が子を戦争にやる人々なのだ」。

 

 

 

 
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