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ソローキンの見た桜のodyssのレビュー・感想・評価

ソローキンの見た桜(2018年製作の映画)
3.5
【甘い話だけど】

日露戦争時代、日本軍の捕虜になって四国は松山にやってきたロシア軍人と、地元出身で負傷軍人の看護婦に志願した若い女性の恋物語。

筋書には色々工夫が施されていて、その点では悪くないのですが、根本的にはやはり甘い話だなという印象を受けました。でも、まあ、こういう映画があってもいいと思う。

ただ、主要な二人については、背景をもう少し描き込んだ方がいいのではないか。
ソローキンは帝政批判・自由思想の持ち主ということになっていますが、彼自身の家柄や経歴などはよく分からない。ロシア革命でも、どういう立場で参加したのかがまるで触れられていない。暴力否定というからには、メンシェヴィキだったのかしらん。

ヒロインである「ゆい」は、学校の英語教員だということになっている。明治30年代、松山で英語を教えていた学校と言ったら旧制の中学か女学校だけでしょう。松山の中学といえば漱石の『坊ちゃん』でおなじみ。漱石自身、1895年(明治28年)に英語教師として松山に赴任しています。しかし旧制の中学は男子校だし教師も男子だけだったはずなので、「ゆい」が英語教師を務められるのは女学校しかない。「ゆい」の家は由緒ある蝋燭屋という設定ですから、女学校に通うことは十分あり得たと思いますけど、女学校の教員になるためにはさらに上の学校に行く必要があり、それはこの時代には東京の女子師範(今のお茶の水女子大)か英学塾(現在の津田塾大)しかないはず。つまり非常に稀なことだったんですよね。或いは、個人的なツテで英米人に英語を習って実力を認められて教員として採用という場合もあったと思いますけれど、いずれにせよその辺の経歴が空白のままでは、説得性がイマイチなのです。

そんなこと、どうでもいいじゃないか、という意見もあるでしょう。しかし、映画ではこういう細部をしっかり描くことでリアリティが確保されるのです。
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