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RBG 最強の85才の湯呑のレビュー・感想・評価

RBG 最強の85才(2018年製作の映画)
4.7
最近、アメリカ合衆国最高裁判所の女性判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグについての映画が2本公開された。ひとつは、ギンズバーグが弁護士時代に携わった裁判の顛末を描いた『ビリーブ 未来への大逆転』、もうひとつが彼女の半生を追ったドキュメンタリー『RBG 最強の85才』である。ぼやぼやしている内に『ビリーブ 未来への大逆転』の公開が終了してしまい、残念ながら本作の前に観賞する事ができなかった。これは痛恨の極みだ。おそらく、2本セットで観ていれば、ギンズバーグについてより理解が深まったと思うのだが…
しかし、本作だけでも映画館へ駆けつける価値がある事は保証できる。観賞中、私は何度も涙を流した。もちろん、夫マーティンとの深い愛情がうかがい知れるエピソードも感動的だったが、最高裁判事となってからのギンズバーグの反対意見(最高裁で判決とされた多数意見に対し、各裁判官が個別に表明する意見)に心を打たれた。
ギンズバーグは確かにリベラルな思想の持ち主であるが、それが彼女の司法判断に100%反映する訳ではない。他の判事とのパワーバランスによっては妥協せざるを得ない面もあるだろうし、年齢の事を考えると社会の変化に対しコンサバティブな側面も持ち合わせているかもしれない。しかし、彼女の述べる反対意見にはとにかく「筋を通す」事への強靭な意志が込められている。彼女が社会の性差別を解消しようと努力し続けているのも「法の下の平等」という合衆国憲法の基本理念に対し、男性と女性の処遇に差を設ける事は「筋が通らない」と考えているからだ。彼女が大統領選の最中、珍しく感情的になりトランプ候補を詐欺師呼ばわりしたのも、彼が「筋を通す」人間ではない事が直ぐに分かったからだろう。
しかし、結局トランプは選挙戦に勝利し第45代合衆国大統領となった。これはアメリカ国民が厳しい経済状況や不安定化する世界情勢を杞憂するあまり、「筋を通す」事を忘れてしまったからかもしれない。人々は不安や恐怖のあまり、大切なものを手放してしまう事が往々にしてある。その大切な何かを取り戻す為、今この瞬間も彼女は闘い続けている。
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