蛇らい

魂のゆくえの蛇らいのレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
4.2
まず、美術が素晴らしかった。ミニマムで質素な家具や生活用品が哀愁を漂わせていた。ウイスキーとノートだけでかっこいいシーンを完成させていることが監督の技量を物語っている。夫婦の家のリビングでは、目の形をしたライト?みたいなものが置いてあり、神はいつでも見ているという暗示をしているのもかっこいい。

時代の目まぐるしい変化と共に増え続ける、多種多様な社会問題に対し、身を委ねる信者の体重を、宗教が支えきれなくなってきている苦しい現状があることを学べた。

日本人にとってあまり馴染みのないテーマではあるが、宗教、教会、信者の構造がとても解りやすい。メガチャーチに来場者を持っていかれていることや大企業の寄付によって成り立っている小規模の教会などの現状を挙げて、現代社会で宗教が生き残るために、神の意志や思想を犠牲にしなければならない苦しさをうまく表現できている。

主人公は、夫婦を苦しみから救済しようと試みるのだが、宗教的な観点と立場を通して問題に直面したときに矛盾が生じていることに気づく。それは、宗教の仕組みが社会の構造に追い抜かれつつある事実と神の意志に対するジレンマだ。夫を救済できなかったことにより、主人公は自分という人間の在り方について、精神の極限まで自問自答を開始する。

やはり、ラストのシークエンスが全てを物語っている。神に忠誠を誓ってきたが、救えなかった人がいる事実。それは宗教と自らの信念が矛盾していることに気づきながらも、自分と向き合うことができなかった愚かさである。

そして全ての終わりを選んだ主人公に待っていたのは神の救済。その場所は恨んだ教会であり、救ったのはメアリーという名の女性であった。この皮肉とも受け取れる結末は、これほどまでにない苦しみを主人公に与えている。それは罰でもあり救いの手でもあるという描写がすばらしい。そしてイーサン・ホークの見事なまでの演技を通して、どこかで微笑む神の表情までも見える気がした。
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