まっつん

孤狼の血 LEVEL2のまっつんのレビュー・感想・評価

孤狼の血 LEVEL2(2021年製作の映画)
3.5
白石和彌監督の東映ヤクザ映画part2。前作のレビューって書いてないんですけど、個人的には結構好きで。やはり狂人刑事(デカ)が出てくる作品はどうしたって面白いんですよ。粗暴でアッパーな役所広司演じる、大上の魅力が爆発しており、そんな大上にドン引きしつつ、行動を共にする松坂桃李演じる日岡というこのタッグの妙が素晴らしかった。日岡は「暴力的で、倫理もクソもない世界を傍観者として目の当たりにし、狼狽える」という、我々観客に近い存在であるため大上の狂人ぶりがより際立っていたわけです。

で今作ですよ。前回から3年経ちまして、大上の後を継いだ日岡はすっかり不良デカに。彼の暗躍の甲斐もあり、広島の治安は守られていた。そんなところに、最恐の狂犬が現れる….というのがあらすじ。

今回のいいとこ!ズバリ言ってキャスティングです。特に誰もが言うように、鈴木亮平演じる上林が凄まじい。もう一発目に映った瞬間から、殺る気マンマンと言いますか、「あ!ヤバい奴が来た!」というのが分かる。そこからは、想像を遥かに超える大暴れに次ぐ大暴れ。東映ヤクザ映画の金字塔、「仁義の墓場」に登場した石川力夫を彷彿とさせる向こう見ずさ。「せこいビジネスの話ばかりしやがって!暴れ回りもせんと何がヤクザじゃい!」というこの気概は正しく石川力夫。兄貴分だろうが何だろうがお構いなしに、殺して殺して殺しまくる!んで、石川力夫は狂犬でありながらもどこか内面の弱さもある人物であったのに対し、上林はめちゃくちゃ強いうえに迷いもないので手に負えないわけです。そんな役を圧倒的な肉体的圧力でもって演じる鈴木亮平は本当に素晴らしい。ハッキリ言って、上林が出てくると無条件に場面をさらってしまうので、もう僕なんかは釘付けですよ。で、彼が成り上がっていくお話的なロジックとしては弱いものがあるんだけど、やはり彼の圧倒的な圧力にねじ伏せられるのであまり気にならないんですよね。正しくベストアクトです。

もう1人挙げるとすれば、村上虹郎演じるチンタ。まぁ、この子が酷い目に遭うわけですよ。僕は本当に可哀想で仕方なかったんですけど、板挟み状況に陥った彼の切羽詰まった表情とかもう絶品ですね。強がってヘラヘラしてみせたり、イキってるんだけどイキり切れないこの感じ。とか、極めて無意味な状況で「あること」を強要されるシーンの「もう….どうしよう....」って感じの表情とか見事だなと思いました。

他にも松坂桃李も相変わらず良かったし、脇を固める早乙女太一とか毎熊克哉とかもいい味出してました。

一方で、演出の方向性には疑問があって。とにかく「怒り」と「泣き」の感情露出に振り切り過ぎな印象がありまして、特に主要キャラクターの演技テンションが皆同じ方向を向きすぎているので、一本調子な感じは否めないかなと。前作はその点、役所広司や石橋蓮司など「抜き」が上手い役者が揃っていたので良かったのですが....

あと大変初歩的なツッコミですが、やはり「愛人の弟にスパイ活動をさせる」というのは幾らなんでも乗れないですね...前作の大上は「堅気には絶対手を出させない」という信条のもと、一匹狼になって泥を被っていたわけじゃないですか?今回のチンタは堅気とも言い切れない所詮チンピラ程度ってところはあるにせよ、姉はガッツリ堅気なわけでしょ。しかも、チンタまだ子どもなわけですよ。それはちょっとあまりにも....って思うし、作戦としても弱過ぎるだろ!もちろんそこに対する断罪はありますよ。しかし、物語の後半で情感たっぷりにやられても「こうなることは遥か前から分かっていたことだろ!」って思っちゃうんですよね。

んで、そう思っちゃうのは監督の作風っていうのが大きく関係していてですね、白石監督って基本的に人情噺の人なんですよね。これがもっと血も涙もない話だったら気にならないんでしょうけど、前作から一貫して最終的には人情噺に収束していくので、そういった倫理的なアラが気になってしまう。個人的な好みになっちゃうんですが、次はどうか善人不在の、正しくドライで血も涙も無い話をやって欲しいななんて思いますね。