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リビング・デッド サバイバーのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

自宅で。

2018年のフランスの作品。

監督はドミニク・ロッシャー。

あらすじ

元恋人から私物のカセットテープを取り戻すために彼女のパーティーに仕方なく参加したサム(アンデルシュ・ダニエルセン・リー「わたしは最悪。」)人が苦手なサムはパーティーの喧騒から逃れるうちに奥の部屋に逃げ込み、いつのまにか眠りこけてしまう。翌朝、目覚めると周囲は血だらけで彼以外の人間は全員ゾンビ化してしまっていた。建物に立て篭もり、いつ来るかわからないゾンビの襲撃や食糧不足に悩まされながら、彼の孤独な戦いが始まる。

宇多丸さんの「アトロク」で準レギュラー的な存在でゲスト出演した映画監督でスクリプトドクターである三宅隆太氏が「こんなタイトルだけど、実はちゃんとしている劇場未公開映画特集」で紹介していた一本で気になって、U-NEXTで配信されていたので鑑賞。

お話はあらすじの通り、いわゆるゾンビものスリラーではある、しかも出てくるゾンビは動きがスローリーなロメロゾンビではなく、走るタイプのゾンビ!!ということで、かなりスリリングな作品になるかと思いきや…そのほとんどはものすごく静か。

というのも、本作の主人公サムはゾンビパンデミックになる前から人が苦手で、その発端も人を避けて奥の部屋に閉じこもっていたことで助かった訳で、じゃあパンデミックが起こりましたという瀬戸際でも終盤までずっと同じ場所に閉じこもり、人間は自分1人だけというある意味「夢の世界」を謳歌するのが本作の特徴。

初めは下のフロアで自殺した夫婦から入手したショットガンを携えて、どこの場所が危険かを探りつつ、ダメな場所にはばつ印をつけてどんどんとセーフゾーンを確保した後は自室に閉じこもり、外の世界でたむろするゾンビにペイント弾を当ててほくそ笑んだりして楽しむ毎日、つまりは性格が暗い笑!!

特に彼は音楽が趣味なんだけど、セーフゾーンで見つけたドラムをゾンビがくる危険性があるにも関わらず、え?めちゃくちゃ上手くないか?っていうテクニックで爆音&超絶テクニックで打ち鳴らすシーンは爆笑してしまった、無駄にうまい笑。

あと、同じくあったルーパー(音をループさせて、折り重なった音で音楽を作り出す装置)で、そこにあったビンや机などを叩いて作り出した音で即興で独創的な音楽を楽しむシーンは非常に楽しそうで、あれ?これはゾンビ映画?と一瞬錯覚してしまうようなアーティスティックなシーンとなっていた。

なので、本作ゾンビ映画独特のサバイバル描写はほとんどない、まぁ実質的には途中、外の世界でみつけたネコを助け出すシーンでちょっと襲われてやばくなったり(しかも、それも途中で見つけられなくなり、失敗)、あとは終盤のある展開でのシークエンスはあったりするんだけど、それ以外は気配はあるもののほとんどゾンビは出てこないし、籠城しているのでピンチにもならない。

これが今までにない感じで観ていて新鮮なんだけど、まぁゾンビ映画って作品を面白くするために動かざるを得ない訳で、そういう意味ではいざゾンビパンデミックに陥ったら、大概の人はこういう状況下にならざるを得ないのではないかと非常リアルな視点とも言えて観ていて不思議と面白い。

ただ、やはりエリアも確保されてて、食料もある程度充実していても、人間「孤独」というある意味ゾンビよりも恐ろしい、最大の敵にはなかなか勝てない訳で、サムもそれは例外ではない。

唯一、エレベーターに閉じ込めた、鬼才レオス・カラックス御用達俳優ドニ・ラヴァン(「GAGARIEN/ガガーリン」)演じる攻撃性の低いおじいちゃんゾンビに「アルフレッド」と名付けて、「今日こんなことあってさー」と会話相手にして「孤独」を紛らわしたりして初めは楽しんでいたんだけど、段々とげっそりしていき、髪も所々10円ハゲができてしまうほど精神的に追い詰められていくサム。また、ゾンビに実際には襲われなくても夜な夜な襲われる悪夢に苛まれて飛び起きたりと安全は確保されていても、人ってのは真の意味では孤独には勝てないのかもなあ…と実感させられる。

で、遂に上述のドラムセットを激しく打ち鳴らし、ゾンビを集めたところで慟哭のごとく、そいつらを見下ろしながら吠える様はいよいよやばい…。

で、そんな矢先、夜寝ているとドアを激しく叩く音が!!遂にゾンビがやってきたとショットガンでドア越しに撃つと、なんとそれはゾンビではなく、自分以外で初めて遭遇した生存者、サラ(ゴルシフテ・ファラハニ「エルマーのぼうけん」)だったという不運。

しかも、腹部にはサムの銃弾で既に瀕死状態となっているんだけど、サムの介抱もあって「幸運にも」助かる。

で、そこからはそれまでずっと1人だったサムがサラと一緒にルーパー音楽を楽しんだりするんだけど、段々と恋仲になって…という方向にいかないのも、すごくバランスがいいと思う。

その中で、これからもずっと内に閉じこもる道を選ぶサムに対して、それじゃダメだ、外に出ようと助言するサラ。その言葉に思い悩み、考えを改めはじめるサムなんだけど…。

なるほどー!!実は…な展開はちょいネタバレすると近々で観た今年公開の「あの作品」も連想する展開だった訳なんだけど、要は今作最初っから最後まで「内なる自分との対話」であり、パンデミックになる前から、それまでずっと自分の世界に閉じこもっていた主人公の「成長」を描く話だったわけか。

ラストはそれまで孤独を紛らわす、会話相手だったアルフレッドとも別れ(このシーンも非常にグッとくる!)、遂に自分の力だけでゾンビの群れを突破し、必死の行動で新たな世界に飛び出すサム。彼の行先に光はあるのか、その先は語られないまでも、まだ希望はある!、そんなラストだった。

登場人物も少ないし、予算も多分すごく少ない作品ではあるし、普通のゾンビ映画のようなサバイバルを期待すると肩透かしを喰らう作品ではあるんだけど、その分本作だけにしかないオリジナリティをちゃんとクオリティに昇華した作品で見応えがあった、おススメです!!
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