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ビューティフル・ボーイのtsuraのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
4.0
自分がこの立場であれば。

そう考えずにはいられなかった。

息子と父親の双方が見せる痛みと哀しみの吐露に心が突き刺さり見終えても頭から離れなかった。

だからこそだが万人受けする様な題材でも無いし過激な描写もあることにはあるが、この作品は万人に見て欲しいと思える作品だ。

昨今若年層どころかあらゆる世代に横たわりつつあるドラッグの問題をこれほどまでに痛々しくも真正面から受け止めた作品は数少ない。
丁寧にしかしオブラートには包まず切り込んできたのだ。

何よりこの問題に苦しむ人達はごくパーソナルな環境下にいるわけだが、実にこれが近しい存在に感じてしまう。
これは監督の演出と演技の賜物なのだろうが波風立たぬ平静の中にラジカルな調子が介入すると、対比するかの様にバラエティー豊かな音楽が鳴り響く。
しかしそれはあまりにもトラジックな響きとなって私たちを呑み込んでしまう。

それはもう対岸の火事では無いのだと。

もうすぐ隣に横たわる問題なのだと。

そういう意味では直ぐにでも感傷的なドラマを挿入しやすい類にあるのに、この作品は変なお涙頂戴演出に傾倒していないからリアルな質感を得れたのだろう。

彼ら家族の葛藤や息子ニックの痩せこける姿を見ているだけでもしっかり重たいこの問題の本質が伝わってくる。
それを体現するスティーブ・カレル、モーラ・ティアニー、エイミー・ライアン、ティモシー・シャラメは素晴らしい。

しかしその中でも独特の光を放つティモシー・シャラメの演技は素晴らしかった。

体をメイクし蝕む様にデコレーションする手法を取らず、彼は減量し徹底的にその"人物"として苦しみを体現してみせた。

そのニックの苦しみとは如何程なのだろうか。
今までの更生モノと明らかに違うなと思ったのは、蝕んだ心を理解する事は勿論容易く無いがそれ以上に、というかそもそも傍に寄り添う事すらも難しい問題なのだとこの作品は本当の意味での苦渋を教えてくれた様に思える。
こういったタイプの作品にしてはよく期待に応えていたと思う。







クライマックス。

疲れ果て、病み痛む心身を無償の愛と赦しに掬われ柔らかな陽光のような…その愛の抱擁に涙が止まらなかった。


ニックの衰弱と重なるようにして見る者の心すら蝕んだ痛みは不思議とエンドクレジットで浄化され見事に現実にゆっくりと対峙する時間を与えてくれながら引き戻してくれる。
その役目を担うサンファの「treasure」はそんなズタボロになった私達を優しく包み込んでくれた。

しかし後に語られる息子ニックの心の闇を模倣したかの様に読まれるブコウスキーの「let it enfold you」はあまりにも効果的だった。


しかし久々だろうこの美男子の出現は。
「君の名前で僕を呼んで」で同性すら虜にいや、恋に落としてみせた彼は今作でも古代ギリシャ彫刻の様な普遍的すらある美に肉薄している。
しかしながらこの作品に於ける形容詞としてこれを美しいと例えてしまうとあまりにも不謹慎なのだが、どうしてもティモシー・シャラメというか彼の様な美男子が破滅するのはサマは何故こうも映えるのだろうか。

美がこの世に存在するというのはそれほどまでに諸刃の剣なのだろうか。
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