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ビューティフル・ボーイの新品畳のレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
4.7
素晴らしい俳優と素晴らしいロケーション、素晴らしい脚本。

従来の薬物映画というとドラッグそのもののおぞましさよりも、退廃的な格好よさに託つけた「ワルさ」の表現ばかりに執着していて嫌気がさすことが多かった。

あえて汚い場所で生き、あえて汚い格好を好み、あえて他人の真面目さを蔑み、堕ちていくことを良しとする「この雰囲気こそがドラッグ文化である」とでも言いたげな姿に言わんともしがたいダサさを感じていた。

だが、今作で描かれる薬物依存症の主人公は裕福な家庭で育った"ごく普通の少年"だ。
身なりも基本的に清潔感があり、薬を打つ場所も路上や場末のバーのトイレなどではなく、整えられた自室や小綺麗なホテルの一室などなのである。

そして「なぜこの少年が?」と我々が不思議に思うまま彼は薬物によって転落していく。
本人の抵抗も家族の支援も虚しく、ドラッグに溺れ、薬の奴隷と化していく様はただただ悲壮で、そこに「ワルさ」という反道徳的な美徳は微塵も見当たらない。

過剰な快楽の"欠乏"に脳を占拠される状態異常によって、ささやかな幸福など彼の目には入らなくなる。心理学でいうトンネリングの状態だ。
親の愛情、さまざまな機微に包まれささやかに過ぎる時間、庭の草木の緑。
映画の像に映された、我々観客が視認できるそれらを主人公だけが見失うのだ。
この演出がものすごく印象的だった。

不幸とは極上の快楽を得られない状態が続くことではなく、すぐ隣にある可能性をひたすら失い続けることだ。

エンドロールの主人公の独白からも、そのことは垣間見ることが出来る。

草木や風景、自然の撮り方がヨーロッパ的でなんとなくアメリカ人の監督ではないだろうな、とは思いながら見てたけど調べてみたらベルギー出身の人らしい。

それもあっていい塩梅にアメリカを客体化して撮ることができたのかもしれない。
本当にいい映画だった。
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