蟹ヶ谷

愛がなんだの蟹ヶ谷のレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.3
常識とは大人になるまでに身に付けた偏見のコレクションである。そんなことを思うくらい、この映画の感想は滑稽なものになってしまう。それは、この映画を批評するという客観的な行為が、翻って自身の恋愛の履歴や考えを物語ってしまうことになるからだ。
言ってしまえば、これは物語に分類していいのか?と思うほどに個人的な問題の寄せ集めでしかない。しかしながら、誰しもが味わったことのある、叶わないであろう欲望について、有り体に言えば片思いの辛さについて、しんどくなっちゃうくらい誠実に描いているから強引に成立しちゃうし、人物に対して呼びかけたくなってしまうくらいこの映画の描写力、解像度が優れている。

だから外野から抽象的なことばかり言うのも卑怯だと思うのでざっと言っちゃうと、僕は岸井ゆきの演じるテルコちゃんみたいな、世界を一生懸命に楽しむタイプというか、バカポジティブなタイプ好きだし、ペタペタ歩く様子も子供みたいにはしゃぐのも本当に愛らしい。この人に幸せになってほしい。そういう目で見るとマモちゃんの演出されたような鈍感さにムカつくし、中原はひたすらにキモくていじらしい。

そして私みたいに、型にハマった恋愛なり社会生活を送っている人が周りにいる人間からすると、予想がつかない展開ばかりでビックリするし、ラストもすご…って思う。そう言う意味では2019年本当に素直に面白かった映画かも知れない。

テルコは、常識がないと言われるのかも知れないが、最初から最後まで「たかが人生じゃないの」みたいな開き直った態度を感じる。マモちゃんが言う自由じゃん、とは違うけど、テルコの選択に結局外野から口を出すなんて誰にもできないんだよね。だって人の気持ちって結局本人にしかわからない。人の恋愛を笑うな。

まあ端的に言いますと、こんな風にキモい長文を書き込ませる力が、この作品にはありますね。
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