Kazumi

斬、のKazumiのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
5.0
人を斬るというのは、人の肉を切るということで、血も出れば内臓も飛び出る。そんな当たり前のことを、何で忘れていたのかと思う。斬られた肉の痛みを想像することなく、成り立つチャンバラ劇に慣れているから、この映画を観る意味があったと思った。

この浪人の刀が、銃に持ち替えられたとき、「野火」という作品に繋がっていったとか、何かで読んだ。
浪人の葛藤は、痛みを知る全人類に共有できるはずなのに、なんのボタンの掛け違えで戦争になんか。
それは諸々複雑な事情、大きな歴史があるかも知れない。けどそこにある個人にとって、暴力って痛い、何の為かも知らず死ぬって馬鹿バカしい。そのシンプルな事実で十分、反戦材料じゃないのか。
きっと農民の娘さんは、そういう良識をもってたんじゃないか。最後の嗚咽、そんな良識の敗北のようで辛い。

今、もっともっと、痛みを想像しづらい時代で、この作品を残してくれて本当にありがとうという気持ち。
斬、野火と、一本の線が引かれて、間違いなく現代にも繋がっている。
この作品があることで、残酷描写を軽く受け入れる自分、世の中の状況が、実はちょっと異常かもしれないと、相対化して見える。

塚本監督の映画を観ると、いつも、痛みや、快感を感じるその身体ということを考える。

映画は何かの追体験のように錯覚するけれど、実は、何も体験していない。座席で、身じろぎもせず、凝視する観客にとっては、身体の感覚こそ、一番、隠されている。
だから映画で、どんな痛みも、快感も、嘘であるし、それがどんな重要なことでも、追体験なんかできるはずもない。

だけど塚本作品を観ると、映画という方法が、なによりも可能性があると感じてしまう。最後には結局、観る人の想像力と身体が、掛け値になっているから。

それは他のどの作品もそうかもしれないけど、私は特に、身体のことを考えるようなときにはいつも、塚本作品のことを思い出す。作品が自分の中に生きて、知らない痛みや快感を、思い出すように教えてくれる気がする。
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