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斬、のodyssのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.0
【映像はいい】

江戸末期の、北関東か東北の農村を舞台に、武士のはしくれである若者(池松壮亮)、武士に憧れる農民の若者(前田隆成)、その姉(蒼井優)、そして凄腕の武士(塚本晋也)を配した時代劇。時代劇なので斬り合いは出てきますが、武士として生きることの意味を問いかけるような内容なので、ふつうの時代劇を期待してはいけません。

この映画の特徴は映像でしょう。農村やその周辺の森の様子が生々しく、またアングルやカットなどに独特の工夫をして斬新な印象を喚起しています。後半は暗いシーンが多いので、ニコラ君のように(笑)解像度の劣るパソコンで見るのは薦められません。映画館のスクリーンで見ないとこの作品の映像の評価はできないでしょう。

斬り合いのシーンが分かりにくいのですが、これは意図的なものだと思います。

主役の4人も健闘しています。

ただ、見終えてみると、何か物足りなさが残ります。典型的な時代劇でなくてもいいけれど、武士として生きることの本質を問いただすのもいいけれど、それだけでは満たされない何かが観客の胸の中に穴のように空いたままなのです。もう少し何かが欲しい。二部作の第一部だけ見て終わった・・・そんな印象でした。

多分、塚本監督の構想自体に問題があったのではないか。
たしかに人を斬るという行為は簡単にできることではない。
しかし斬らなければ斬られるというのが世界、少なくとも当時の世界。
江戸末期だから清王朝はすでに英国にアヘン戦争でやられていた。
中国が好戦的だったからアヘン戦争になったのか? 中国が平和的だったらアヘン戦争は起こらなかったのか?
そうじゃないんですよね。問題はアヘンを不当に押し売りした英国側にあったわけだから、清王朝を責めても仕方がない。

アヘン戦争は外国の例だというのなら、江戸末期の日本だって同じ。
明治維新は武力を背景にして行われた。
たどえ江戸城が無血開城となっても、それは純粋な「話し合い」で決まったわけではなく、一方の武力を認め他方の武力を否定することで決まったわけです。
世の中は(残念ながら)そういうもの。
映画関係者は政治音痴だからその辺は分からないかも知れないけどねえ。
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