Penny

斬、のPennyのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.8
斬れる者と斬れぬ者。遠い昔のような、遠くない未来。

人を斬る理由とは何か。誰かのため、大義のため、そして、自分自身が生き残るため。しかし、斬った後に残るのは、悲しみや憎しみ、復讐心や絶望だ。
塚本映画は鑑賞後に釈然としない心持ちにさせ、凄まじく問いかけを残す。今回は自身初の時代劇。「野火」から4年。戦争の地獄を描き、戦争ってこんなもの、ということを嫌というほどみ見せつけた塚本監督が、本作で鳴らす警鈴は如何に。

舞台は明治へ向かう動乱の時代、江戸近郊の農村。時代の波に翻弄される一人の浪人と周囲の人々を通し、生と死の問題に迫る。不穏な時代に、今日という日を生きるだけとするのか、それとも大義を掲げそれを果たさんとするのか。仮にも武士だった主人公だが、"斬る"ことへ疑問を抱きつつ日々を生きる。

時代劇特有の、殺陣などで魅せる爽快感はない。"悪人"をバッサバッサと斬っていく姿、力なき者を助けている"ようにみえる"ヒーロー、そこに生まれるものは懐疑心。

塚本監督は本作に現代との近似性を語る。
主人公は実戦経験を持たぬまま力だけ持ち、強者から戦の誘いを受ける。村の娘は平時なら諍い反対を謳っているが、いざ手を出されると「仇を取れ」という。
そして、「お前の力をみせてみろ」と戦いを引き起こした”強者”が言う…

言い知れぬ焦燥感を抱かされ、塚本監督の皮肉な笑みが脳裏に浮かぶ。「どうだ、人を斬れるようになってみたいかい?」
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